芥川賞と直木賞の違いを説明できますか?この二つの文学賞の最も大きな違いは、対象となる作品のジャンルにあります。
芥川賞は芸術性を問う純文学の新人作家に、直木賞は面白さが評価される大衆文学の新進・中堅作家に贈られる賞です。
この記事では、新人作家の純文学か、人気作家のエンタメ小説かという視点で、創設の背景から一覧での比較、簡単な覚え方までわかりやすく解説します。

結局、芥川賞と直木賞ってどっちがすごいの?



両賞に優劣はなく、評価する尺度が全く違うんです!
- 芥川賞と直木賞の3つの大きな違い
- 賞が生まれた歴史的な背景
- 「新人×純文学」「人気作家×エンタメ」という覚え方
- どちらがすごいかという疑問への答え
芥川賞と直木賞の最大の違い
芥川賞と直木賞、ニュースや書店でよく耳にする二つの文学賞ですが、その違いを正確に説明するのは難しいですよね。
二つの賞の最も大きな違いは、対象となる作品のジャンルにあります。
芥川賞は芸術性を問う「純文学」、直木賞は面白さを評価する「大衆文学(エンターテインメント)」の作品に贈られます。
項目 | 芥川賞 | 直木賞 |
---|---|---|
対象ジャンル | 純文学 | 大衆文学(エンターテインメント) |
対象作家 | 新進作家(新人) | 新進・中堅作家 |
作品の形式 | 雑誌掲載の中編・短編 | 単行本(長編・短編集) |
この根本的な違いは、賞が生まれた経緯に由来します。
それぞれの賞の性格を詳しく見ていくと、違いがはっきりと理解できますよ。
芸術性を問う純文学の新人賞である芥川賞
芥川賞は、主に無名または新人作家によって書かれた純文学の短編・中編作品に贈られる賞です。
「純文学」とは、人間の内面や心理を深く掘り下げ、芸術性を追求する小説を指します。
この賞は「新人作家の登竜門」とも言われ、受賞をきっかけに多くの作家が文学界で確固たる地位を築いてきました。
例えば、お笑い芸人である又吉直樹さんの『火花』は、芥川賞受賞後に単行本だけで229万部を超えるベストセラーになりました。



純文学って、少し難しそうなイメージがあります…



大丈夫ですよ。まずは受賞作のあらすじを読むだけでも、その独特な世界観に触れられます。
芥川賞の受賞は、作家の芸術的な才能が文学界に認められた証であり、作家本人にとってこのうえない名誉となるのです。
面白さを評価する大衆文学賞である直木賞
直木賞は、新進・中堅作家による優れた大衆文学作品に贈られる賞です。
「大衆文学」とは、ミステリー、時代小説、ファンタジーなど、読者を楽しませるストーリーの面白さ、つまりエンターテインメント性が重視される小説を指します。
対象は新人作家に限りません。
すでに人気や実績のある中堅作家が受賞することも多く、作品が面白いことの証明になります。
2012年には、朝井リョウさんが『何者』で戦後最年少となる23歳7か月で受賞し、大きな話題を呼びました。
直木賞の受賞作はベストセラーになることが多く、映画やドラマなど映像化につながりやすいのも特徴です。
多くの読者に愛されるエンターテインメント作品を選出する賞といえます。
創設者・菊池寛の想いから生まれた2つの賞
これら二つの賞は、小説家であり文藝春秋の創設者でもある菊池寛によって創設されました。
彼は亡くなった二人の親友の功績を後世に伝えるため、それぞれの名前を冠した賞を設けたのです。
1935年、芸術性の高い純文学で知られた芥川龍之介を記念して「芥川賞」が、そして人々を楽しませる大衆小説で人気を博した直木三十五を記念して「直木賞」が同時に生まれました。
この二人の作家のスタイルの違いが、そのまま賞の性格の違いに反映されているのです。



なるほど、二人の作家の名前が由来だったんですね!



そうなんです。友人を偲ぶ想いが、日本の文学界を代表する賞になったんですよ。
創設の背景を知ることで、それぞれの賞が持つ意味合いへの理解がより一層深まります。
一言でわかる簡単な覚え方
これまでの内容を整理すると、覚え方はとてもシンプルです。
ポイントは「作家」と「作品ジャンル」の組み合わせにあります。
「新人作家の純文学なら芥川賞、人気作家のエンタメ小説なら直木賞」と覚えておくと分かりやすいです。
視覚的に整理すると、記憶に残りやすくなります。
賞 | キーワード |
---|---|
芥川賞 | 新人作家 × 純文学 |
直木賞 | 人気作家 × エンターテインメント |
この二つのキーワードの組み合わせさえ覚えておけば、もう会話の中で「どっちがどっちだっけ?」と迷うことはありません。
書店で本を選ぶ際の新しい基準にもなりますよ。
一覧で比較する芥川賞と直木賞の相違点
芥川賞と直木賞には、対象となる「作家」「ジャンル」「作品形式」という明確な違いがあります。
特に対象ジャンルが純文学かエンターテインメントかという点が、両賞の性格を決定づける最も大きな相違点です。
項目 | 芥川龍之介賞 | 直木三十五賞 |
---|---|---|
対象作家 | 新進作家(主に新人) | 新進・中堅作家 |
作品ジャンル | 純文学 | 大衆文学(エンターテインメント) |
作品形式 | 雑誌掲載の中編・短編 | 単行本(長編・短編集) |
イメージ | 作家の登竜門、芸術性を評価 | 人気作家への栄誉、娯楽性を評価 |
創設者 | 菊池寛(共通) | 菊池寛(共通) |
これらの違いを理解することで、なぜ毎年2つの賞が同時に注目されるのかが、はっきりとわかるようになります。
対象作家-新人の登竜門か、中堅作家への栄誉か
芥川賞は「新進作家」を、直木賞は「新進・中堅作家」を対象としており、作家のキャリアにおける位置づけが異なります。
芥川賞は、まだ世に名前が知られていない作家に贈られることが多く、「作家の登竜門」としての役割を担っています。
1956年に石原慎太郎が『太陽の季節』で受賞した際には社会現象となり、新人作家を世に送り出す賞として広く認知されました。
一方で直木賞は、新人だけでなく、すでに一定の人気や実績を築いている中堅作家も対象です。
そのため、人気作家が受賞することも多く、その作家のキャリアにおける勲章のような意味合いを持ちます。



なるほど、芥川賞は作家のスタートラインで、直木賞はキャリアの勲章みたいな感じ?



そのイメージが一番わかりやすいです!
このように、芥川賞と直木賞では、受賞の対象となる作家のキャリアステージに大きな違いがあるのです。
作品ジャンル-純文学かエンターテインメントか
作品のジャンルが、芥川賞は純文学、直木賞はエンターテインメント作品と、明確に分けられています。
純文学とは、人間の内面や心理を深く掘り下げ、芸術性を追求する作品を指します。
芥川賞の受賞作は、人間の存在や社会について考えさせられるようなテーマを扱うことが多い傾向にあります。
対して直木賞が対象とするエンターテインメント作品は、ミステリー、SF、時代小説、家族小説など、読者を楽しませるストーリー展開や構成の巧みさが評価されます。
どちらの賞の作品を読むかを選ぶ際は、芸術的な余韻に浸りたいのか、物語の世界に没頭して楽しみたいのかで判断するのがおすすめです。
作品形式-雑誌掲載の中短編か、単行本か
芥川賞は雑誌に掲載された中編・短編作品が対象で、直木賞は一冊の本として出版された単行本が対象となります。
芥川賞の候補作は、主に文芸雑誌に発表された原稿用紙100枚から200枚程度の作品から選ばれます。
そのため、受賞作は雑誌『文藝春秋』に全文掲載されるのが恒例です。
一方、直木賞は長編小説や、複数の短編をまとめた短編集が対象となります。
この形式の違いは、作品のボリューム感にも直結し、芥川賞は比較的短時間で、直木賞は腰を据えて楽しむ作品が多いといえます。



雑誌に載った話がそのまま賞になるんだ!



そうなんです。だから芥川賞の発表後は『文藝春秋』が注目されます。
作品がどのような形で世に送り出されたかという点も、両賞を選考する上での重要な基準になっています。
選考基準-どっちがすごいという疑問への答え
「芥川賞と直木賞はどっちがすごい?」という疑問をよく耳にしますが、両賞に優劣はなく、評価する尺度が全く異なります。
たとえるなら、芸術性を競うフィギュアスケートと、得点を競うサッカーのどちらが優れたスポーツかを決めるようなものです。
芥川賞は、作品の芸術性や文学としての新しさが評価されるため、受賞は作家にとって大きな名誉となります。
直木賞は、物語の面白さや読者を惹きつける構成力が評価されるため、受賞作はベストセラーになりやすく、映画やドラマ化につながることも多いです。
それぞれの賞が持つ価値は全くの別物であり、「どちらが上」という視点で比べることはできません。
共通点-主催団体、発表時期、賞品
これまで違いに注目してきましたが、芥川賞と直木賞には多くの共通点もあります。
どちらの賞も、『文藝春秋』を創設した菊池寛によって1935年に設立されました。
主催団体は公益財団法人日本文学振興会で、発表は年に2回、上半期が7月、下半期が翌年1月に行われます。
受賞者に贈られる賞品も共通しており、正賞として懐中時計、副賞として賞金100万円が授与されます。
項目 | 内容 |
---|---|
創設者 | 菊池寛 |
主催団体 | 公益財団法人日本文学振興会 |
発表時期 | 年2回(7月、1月) |
賞品 | 正賞:懐中時計、副賞:100万円 |
同じ創設者から生まれた二つの賞は、いわば兄弟のような関係性だといえるでしょう。
代表的な受賞作の傾向
それぞれの代表的な受賞作を知ることで、両賞の違いをより鮮明にイメージできます。
芥川賞では、又吉直樹さんの『火花』や村田沙耶香さんの『コンビニ人間』が有名です。
どちらも現代社会に生きる人々の感情や生きづらさを描き、大きな話題を呼びました。
一方、直木賞では東野圭吾さんの『容疑者Xの献身』や、池井戸潤さんの『下町ロケット』などが挙げられます。
これらは巧みなストーリー展開で読者を魅了し、映像化作品も大ヒットしました。



『火花』も『下町ロケット』も知ってる!言われてみれば全然タイプが違う!



知っている作品を当てはめると、違いがすっと頭に入ってきますよね。
受賞作のタイトルを並べてみるだけでも、芥川賞が評価する文学性と、直木賞が評価する娯楽性の違いがはっきりと見えてきます。
会話のネタになる芥川賞と直木賞の豆知識
芥川賞と直木賞は、作品そのものだけでなく、その背景にある歴史やエピソードを知ることで、より深く文学の世界を楽しめるようになります。
ここでは、友人との会話や読書の際に役立つ、意外な共通点や人間味あふれるエピソードを紹介します。
項目 | 芥川賞・直木賞 | 本屋大賞 |
---|---|---|
選考委員 | 作家・評論家 | 全国の書店員 |
選考基準 | 文学的評価、芸術性、娯楽性 | 書店員が「売りたい」と感じる本 |
発表回数 | 年2回 | 年1回 |
これらの豆知識を知っておくと、受賞のニュースを見たときや書店で本を選ぶときに、これまでとは違った視点で作品と向き合えるようになります。
賞金100万円と副賞の懐中時計
受賞者に贈られる賞品は、両賞共通で正賞の「懐中時計」と副賞の「賞金100万円」です。
この賞金は、上半期・下半期でそれぞれ受賞者が複数出た場合でも、1人ずつに全額100万円が授与されます。



賞金100万円って、思ったより少なくない?



受賞の栄誉と、その後の本の売れ行きによる印税の方がはるかに大きいのです
賞金の額面以上に、受賞という栄誉そのものが作家にとって計り知れない価値を持ちます。
贈られる懐中時計は、両賞が持つ長い歴史と伝統を象徴する品物といえます。
太宰治が選考委員に激怒した有名なエピソード
純文学の芥川賞を強く望んでいた作家・太宰治が、選考委員の川端康成に激しく反論したエピソードは、文学史に残る有名な話です。
第1回芥川賞で候補になった太宰は、選評の中で自身の私生活に触れられたことに憤慨し、雑誌『文藝通信』で川端康成への怒りをあらわにしました。
事実、私は憤怒に燃えた。小鳥を飼い、舞踏を見るのがそんなに立派な生活なのか。刺す。さうも思つた。大悪党だと思つた。そのうちに、ふとあなたの私に対するネルリのやうな、ひねこびた熱い強烈な愛情をずつと奥底に感じた。ちがふ。ちがふと首をふつたが、その、冷く装うてはゐるが、ドストエフスキイふうのはげしく錯乱したあなたの愛情が私のからだをかつかつとほてらせた。さうして、それはあなたにはなんにも気づかぬことだ。(中略)ただ私は残念なのだ。川端康成のさりげなささうに装つて、装ひ切れなかつた嘘が、残念でならないのだ。 — 太宰治「川端康成へ」
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%8A%A5%E5%B7%9D%E9%BE%8D%E4%B9%8B%E4%BB%8B%E8%B3%9E
この出来事は、文学賞が単に作品を評価するだけでなく、作家たちの情熱や人生がぶつかり合う人間ドラマの舞台でもあることを物語っています。
最年少と最年長の受賞記録
受賞者の年齢に注目すると、両賞の長い歴史と時代の移り変わりが見えてきます。
特に最年少と最年長の受賞記録は、才能の現れ方が一様ではないことを示しています。
芥川賞の最年少受賞は、2003年下半期に『蹴りたい背中』で受賞した綿矢りささんで、その年齢は19歳11か月でした。
一方、最年長は2012年下半期に『abさんご』で受賞した黒田夏子さんで、75歳9か月での受賞となります。
賞 | 区分 | 受賞者 | 受賞時の年齢 |
---|---|---|---|
芥川賞 | 最年少 | 綿矢りさ | 19歳11か月 |
芥川賞 | 最年長 | 黒田夏子 | 75歳9か月 |
直木賞 | 最年少 | 堤千代 | 22歳10か月 |
直木賞 | 最年長 | 星川清司 | 68歳2か月 |
10代での鮮烈なデビューから70代で花開く才能まで、幅広い世代が評価の対象となる点も、文学の世界が持つ奥深さを示しています。
書店員が選ぶ本屋大賞との決定的な違い
近年注目度が高い「本屋大賞」と芥川賞・直木賞には、決定的な違いがあります。
それは、誰が選ぶかという選考委員の構成です。
芥川賞と直木賞は作家や評論家が選考するのに対し、本屋大賞は「全国の書店員」が選考委員を務めます。
日々読者と接している書店員が「お客様に本当に売りたい」と感じる本を選ぶため、読者の共感を呼びやすいエンターテインメント作品が選出されることが多いです。
項目 | 芥川賞・直木賞 | 本屋大賞 |
---|---|---|
選考委員 | 作家・評論家 | 全国の書店員 |
選考基準 | 文学的評価 | 書店員が「売りたい」と感じる本 |
対象 | 純文学・大衆文学(限定的) | 前年刊行の日本の小説全般 |
発表回数 | 年2回 | 年1回(4月) |
芥川賞・直木賞が文学界からの権威ある評価だとすれば、本屋大賞は読者に最も近い本屋の現場からの支持を示す賞といえるでしょう。
よくある質問(FAQ)
- 芥川賞や直木賞に応募したいのですが、方法はありますか?
-
芥川賞と直木賞は、作家が直接作品を送って応募する公募形式の文学賞ではありません。
雑誌に掲載されたり、単行本として出版されたりした作品の中から、選考委員によって候補作が選出されます。
そのため、残念ながら一般からの応募は受け付けていないのです。
- 候補作に選ばれても、必ず受賞者が決まるのでしょうか?
-
いいえ、必ずしも受賞作が決まるわけではありません。
選考委員による慎重な議論の結果、「今回は受賞にふさわしい作品はない」と判断された場合は、「受賞作なし」となります。
これは、両賞が非常に高い選考基準を設けていることの表れといえます。
- 受賞後の作品は、どこですぐに読むことができますか?
-
受賞作は、主催である文藝春秋が発行する雑誌で読むことが可能です。
芥川賞の受賞作は『文藝春秋』に全文が掲載されます。
一方、直木賞の受賞作は『オール読物』に作品の一部と選考委員による選評が載ります。
発表後、すぐに多くの読者が手に取れるようになっています。
- 一人の作家が芥川賞と直木賞を両方とも受賞する可能性はありますか?
-
芥川賞が純文学の新人作家、直木賞がエンターテインメント作品の中堅作家を主に対象としているため、同じ作家が両方の賞を受賞することは現実的にはありません。
それぞれの賞が評価する作品のジャンルや作家のキャリア段階に明確な違いがあるため、両方を受賞した歴代の作家はいないのです。
- 副賞の懐中時計には、どのような意味が込められているのですか?
-
副賞の懐中時計には、賞を創設した菊池寛の「作家にとって時間は命のように貴重なものだ」という想いが込められていると言われています。
単なる記念品ではなく、作家への深い敬意と、これからの創作活動への激励を示す、両賞の伝統を象徴する特別な賞品なのです。
- 芥川賞と直木賞の他に、本屋大賞とはどう違いますか?
-
芥川賞と直木賞が作家や評論家によって選ばれるのに対し、本屋大賞は「全国の書店員」が選考します。
「読者に最も届けたい本」という現場の視点が強く反映されるため、エンターテインメント性の高い作品が選ばれる傾向があります。
選考委員の構成が、賞の性格を決める大きな違いです。
まとめ
この記事では、芥川賞と直木賞の明確な違いについて、創設の背景から一覧での比較まで解説しました。
両賞の最も大きな違いは、芥川賞が芸術性を問う「純文学」の新人作家に、直木賞は面白さを評価する「大衆文学」の新進・中堅作家に贈られるという点です。
- 芥川賞は新人作家の純文学、直木賞は人気作家のエンターテインメント小説
- 芥川賞は雑誌掲載の短編・中編、直木賞は刊行された単行本
- 芸術性と娯楽性という評価尺度が異なり、両賞に優劣はない
これらの違いを理解すれば、書店で本を選ぶ際の新しい基準になります。
ぜひ、ご自身の興味に合わせて受賞作を手に取ってみてください。