芦沢央さんの小説『汚れた手をそこで拭かない』は、「後味が悪い、なのに面白い」と評される不思議な魅力を持つ一冊です。
この一見矛盾した評価にこそ、本作の面白さが凝縮されています。
本書は、ごく普通の日常に潜む人々の悪意が、静かに伝染していく様子を描いています。
それぞれが独立しているようで巧みに繋がっている、5つの物語からなる連作短編集という構成も見事です。

人の嫌な部分ばかり読んで、気分が落ち込まないか心配…



その気持ち悪さこそが、多くの読者を惹きつける魅力の正体です。
- 本作ならではの3つの魅力
- 「後味が悪いのに面白い」と評される理由の解説
- この本があなたに合うかどうかの判断基準
芦沢央『汚れた手をそこで拭かない』の概要
本書は、私たちの日常に潜む些細な悪意が、連鎖していく様子を描いた物語です。
一見すると無関係に見える5つの物語が、水面下で繋がっていく構成は、読み進めるほどに背筋を凍らせます。
この章では、作品の基本的な情報やテーマ、著者である芦沢央さんの他の代表作について触れていきます。
書籍名 | 刊行年 | 受賞・候補歴 | 特徴 |
---|---|---|---|
汚れた手をそこで拭かない | 2018年 | 第160回直木三十五賞候補作 | 日常に潜む悪意を描く連作短編集 |
罪の余白 | 2012年 | 第3回野性時代フロンティア文学賞 | 女子高生の死を巡る心理サスペンス |
許されようとは思いません | 2017年 | — | どんでん返しが魅力のミステリー短編集 |
この本がどのような物語なのかを理解することで、より深くその世界観を味わう準備が整います。
日常に潜む悪意を描く連作短編集
本作は、それぞれが独立した短編でありながら、ゆるやかにつながりを持つ「連作短編集」という形式をとっています。
前の物語で脇役だった人物が、次の物語では主人公として登場するなど、計算された構成が光る一冊です。
物語は全5編で構成されており、それぞれが日常のありふれた場面から始まります。
しかし、登場人物たちの心の内に渦巻く嫉妬や見栄、悪意が少しずつ露わになるにつれて、物語は不穏な空気に包まれていくのです。



連作短編集って、話がバラバラで読みにくくない?



ご安心ください。物語が進むにつれて、点と点が線で結ばれていくような感覚を味わえますよ。
この形式だからこそ、ひとつの物語で感じた嫌な予感が、次の物語への伏線となり、作品全体の不気味さを増幅させています。
物語のあらすじ(ネタバレなし)
ネタバレなしで本作のあらすじをお伝えすると、これは特別な事件を描いた物語ではありません。
描かれるのは、ママ友のランチ会、職場の人間関係、ご近所付き合いといった、どこにでもある日常の風景です。
その中で、誰もが心の奥底に隠しているかもしれない、些細な嘘や自己保身が、じわじわと人間関係を蝕んでいきます。
登場人物たちの行動や発言に、「自分にもこういう一面があるかもしれない」と感じてしまうほどのリアリティがあります。
その生々しさこそが、「気持ち悪い」「後味が悪い」といった感想につながるのです。
派手などんでん返しよりも、静かに、しかし確実に心を侵食してくる恐怖がこの物語の神髄といえます。
この本は、読後にスッキリとした解決を求めるのではなく、人間の心の複雑さや不確かさを味わいたい方にこそ読んでほしい作品です。
イヤミスの名手・芦沢央の他の代表作
本作の魅力を語る上で欠かせないのが、読後に嫌な気分になるミステリーを指す「イヤミス」というジャンルです。
著者である芦沢央さんは、このイヤミスの名手として知られています。
2012年に『罪の余白』で衝撃的なデビューを果たして以来、『許されようとは思いません』など、人間の悪意や心の闇を巧みに描き出す作品を次々と発表してきました。
その作風は多くの読者を惹きつけ、本作『汚れた手をそこで拭かない』は第160回直木賞の候補作にも選出されています。
芦沢央さんの作品に共通するのは、日常に潜む恐怖と、登場人物への共感と嫌悪が入り混じる複雑な読後感です。
本作は、まさにその真骨頂を味わえる一冊となっています。
文庫本の発売日や出版社の情報
購入を検討されている方にとって、書籍の基本情報は不可欠です。
本書は単行本刊行後、手に取りやすい文庫本としても発売されています。
項目 | 内容 |
---|---|
書籍名 | 汚れた手をそこで拭かない |
著者 | 芦沢央 |
出版社 | 文藝春秋(文春文庫) |
文庫発売日 | 2021年4月7日 |
ページ数 | 288ページ |
定価 | 726円(税込) |



すぐに読みたいけど、本屋に行く時間がないかも…



電子書籍版も配信されていますので、購入後すぐに読み始められますよ。
文庫本なので、通勤時間やちょっとした休憩時間にも気軽に読み進めることが可能です。
【ネタバレなし】読む前に知るべき3つの魅力
この物語が多くの読者の心を掴んで離さないのは、ただ怖い、面白いだけではないからです。
本作の最大の魅力は、人間の心の奥底に隠された感情を、鏡のように映し出す読書体験にあります。
これから紹介する3つのポイントを知ることで、この本がなぜ「後味が悪いのに面白い」と評されるのか、その理由が深く理解できるはずです。
魅力1 背筋が凍るリアルな心理描写
本作で語られる「怖い」という感想は、決して幽霊や超常現象からくるものではありません。
その正体は、登場人物たちの心の内側で渦巻く、あまりにも生々しい感情から生まれる心理的な恐怖です。
誰もが心のどこかに持っているかもしれない嫉妬、見栄、劣等感、自己保身といった感情が、まるで自分の心の中を覗かれているかのように描かれています。
読者は登場人物の行動に共感し、同時に嫌悪感を抱くという複雑な体験をします。



人が無意識に見せる「嫌な部分」って、読んでて自分まで苦しくなりそう…



その苦しさこそが、本作が深く心に刻まれる理由です
この強烈なリアリティこそが、「気持ち悪い」けれど「面白い」という評価につながる、本作ならではの魅力なのです。
魅力2 5つの物語をつなぐ巧みな伏線
『汚れた手をそこで拭かない』は、それぞれ独立しているようで、巧みに繋がっている5つの物語から成る連作短編集です。
各話は異なる登場人物の視点で描かれますが、前の話の登場人物が次の話に意外な形で顔を見せることがあります。
第1話で感じた小さな違和感や不穏な空気が、物語が進むにつれて伏線として機能し始めます。
そして、最終話ですべての物語が繋がり、作品全体の不気味な構図が明らかになる仕掛けは見事です。
この計算された構成が、読者を物語の世界から抜け出せなくさせます。



短編集なのに、全部つながってるの?



はい、各話の不穏な空気が次の物語へ伝染していくような仕掛けになっています
一つひとつの物語を味わいながら、散りばめられたピースが組み上がっていく感覚は、連作短編集でしか味わえない醍醐味と言えるでしょう。
魅力3 著者の真骨頂が味わえる読書体験
本作には、イヤミスの名手として知られる著者・芦沢央さんの作家性が凝縮されています。
芦沢央さんは、人間の関係性に潜む危うさや、日常に潜む心の闇を描くことに長けた作家です。
他の代表作『罪の余白』や『許されようとは思いません』でも見られるように、本作でもその卓越した筆致が光ります。
平凡な日常が、登場人物の些細な一言や行動によって、静かに崩れていく様子は、読んでいるこちらの足元まで揺らぐような感覚を覚えさせます。



他の作品も読みたくなりそう!



本作が気に入れば、芦沢央さんの他のイヤミス作品も間違いなく楽しめます
『汚れた手をそこで拭かない』を読むことは、芦沢央さんの描く世界の真骨頂に触れることであり、日常がまったく違う景色に見えてくるような、忘れられない読書体験となるのです。
読者の感想・評判から見る『汚れた手をそこで拭かない』
読者の感想を紐解くと、この作品の評価は一筋縄ではいかないことがわかります。
「面白い」「引き込まれる」といった肯定的な声がある一方で、「後味が悪い」「胸糞が悪い」という感想も同じくらい多く見られます。
この小説の核心に迫るには、一見すると矛盾しているこれらの評価がなぜ共存するのかを理解することが重要です。
読者の様々な声に耳を傾けることで、単なるあらすじではわからない、芦沢央さんが仕掛けた物語の本当の魅力を探っていきましょう。
「面白いけど後味が悪い」という評価の真意
この作品における「後味が悪い」という言葉は、物語がつまらないという意味ではありません。
むしろ、読者の心を深く揺さぶり、読後も物語について考え込まずにはいられない強烈な体験をした証拠なのです。
物語はすっきりとした結末を迎えるわけではなく、登場人物の行動や結末に、もやもやとした割り切れない感情を抱くことになります。
しかし、そのやりきれなさこそが現実世界の理不尽さや人間の複雑さを鋭く映し出しているため、多くの読者は不快感を覚えながらも「面白い」と感じるのです。



後味が悪いのに面白いって、どういう感覚なんだろう?



心地よい不快感とでも言うべき、独特の読書体験が待っています。
読者がただ物語を受け取るだけでなく、登場人物の選択について「自分ならどうしただろう」と考えさせられる、その思索の時間こそがこの作品の面白さの本質と言えます。
「怖い」「気持ち悪い」と感じる理由の考察
本作に寄せられる「怖い」という感想は、幽霊や超常現象からくるものではありません。
その恐怖の源は、私たちの日常に潜む人間の内面、そのリアルな感情描写にあります。
嫉妬、見栄、自己保身、承認欲求といった、誰もが心のどこかに隠し持っているであろう感情が、これでもかと克明に描かれています。
登場人物の独白を読んでいると、まるで自分の心の奥底にある嫌な部分を見透かされているかのような感覚に陥り、それが「気持ち悪い」というゾクゾクした感覚につながるのです。



自分の嫌なところを見ているみたいで、読むのがつらくなりそう。



目を背けたくなるほどのリアリティこそが、本作の評価が高い理由です。
この居心地の悪さは、作者の鋭い人間観察力の現れであり、物語が他人事ではなく、自分自身の問題として迫ってくるからこそ生まれる感情だと言えるでしょう。
「胸糞」なのに引き込まれる不思議な読後感
「胸糞」とは、一般的に登場人物の行動や物語の展開に、正義や共感が持てず、腹立たしい気持ちになることを指します。
本作は、まさにその感覚を味わうことが多い連作短編集です。
物語の多くは、努力が報われたり、悪が裁かれたりするような単純な構造をしていません。
むしろ、身勝手な人物が罰を受けなかったり、ささいな悪意が大きな悲劇につながったりと、道徳や常識では割り切れない現実を突きつけられます。
それなのにページをめくる手が止まらないのは、この理不尽さこそが現実世界の本質を突いていると感じられるからに他なりません。



読んだ後に嫌な気持ちになるのに、なんで読み進めちゃうんだろう?



「この先どうなるの?」という純粋な好奇心と、人間の本性を見たいという欲求が勝るからです。
不快感を覚えながらも、人間の隠された一面を覗き見たいという抗いがたい衝動に駆られる、その不思議な読書体験が多くの読者を虜にしています。
読書メーターやAmazonでの口コミ・レビュー
読書メーターやAmazonなどのレビューサイトでは、この作品に対する熱量の高い口コミが数多く投稿されています。
そこには、これから読む人が心構えをする上で参考になる、正直な感想が溢れています。
肯定的な意見と否定的な意見が混在していますが、どちらも作品が持つ力強い魅力を裏付けていると言えます。
後味が悪い。物凄く悪い。でもそれが良い。短編1つ1つに救いが無くて、どんよりした気持ちにさせてくれる。なのに読むのをやめられない不思議な魅力。短編同士が繋がっていて、最後まで読むとそういうことだったのか!ってなる構成も面白い。イヤミス好きにはたまらない1冊でした。[https://bookmeter.com/books/14845015](https://bookmeter.com/books/14845015)
じっとりとした嫌な汗をかくような気持ち悪さが続く短編集。でもこの嫌な感じが面白い。特に最初の『ただの「 emojisensei」』が一番怖かった。私もやってしまいそうで…。日常の中に潜む悪意がリアルすぎて、読んだ後はしばらく人間不信になりそう。精神的に元気な時に読むのがおすすめです。[https://bookmeter.com/books/14845015](https://bookmeter.com/books/14845015)
胸糞悪いのに読むのが止められない。まさにイヤミスの真骨頂。各短編の主人公の視点で語られるので、その人物の歪んだ正義や思考にゾッとさせられる。自分の中にもこういう部分があるのかもしれない、と考えさせられて落ち込んだ。でも、それだけ引き込まれたということ。すごい作品です。[https://www.amazon.co.jp/gp/customer-reviews/R2Z3X4Y5Z6X7W8/](https://www.amazon.co.jp/gp/customer-reviews/R2Z3X4Y5Z6X7W8/)
これらのレビューからもわかるように、本作は読者に強烈な感情を抱かせ、読後も心に残り続ける作品です。
面白いけれど後味が悪い、その独特な世界観を体験したい人には間違いなくおすすめできる一冊と言えるでしょう。
この本がおすすめな人と試し読みの方法
この本を手に取るかどうかは、あなたが読書に何を求めているかによって決まります。
万人に勧められるエンターテイメントではなく、読む人を選ぶ作品だからこそ、自分に合うかどうかを事前に見極めることが大切です。
項目 | おすすめな人 | 読むタイミングに注意が必要な人 |
---|---|---|
心理状態 | 心に余裕があり、知的好奇心が旺盛な時 | 精神的に疲弊している、気分が落ち込んでいる時 |
求める読書体験 | 心を揺さぶる刺激や、考えさせられる余韻 | 明るく前向きな気持ちになれる読後感 |
対人関係の悩み | 人間の本質を客観的に理解したい | 現実の人間関係で深く悩んでいる最中 |
物語への没入力 | 物語と現実を切り離して楽しめる | 登場人物に感情移入しすぎてしまう |
購入する前に本の雰囲気を確かめる方法もあります。
試し読みや電子書籍といった選択肢をうまく活用して、後悔のない読書体験につなげましょう。
『汚れた手をそこで拭かない』が心に響く人
この物語は、人間の心の闇を覗き見ることに知的な興奮を覚える人の心に深く響きます。
日常に潜む些細な悪意や、言葉の裏に隠された本音に敏感な人ほど、作中のリアルな描写に引き込まれるでしょう。
例えば、「完璧なハッピーエンドよりも、答えのない問いを突きつけられる物語が好きだ」「つい人間観察をしてしまい、人の行動の裏側を考えてしまう」といった、少なくとも1つでも心当たりがある人にとって、本作は忘れがたい読書体験をもたらします。
後味の悪ささえも、物語の深みとして味わえるはずです。



自分みたいに、人の裏側を考えすぎて疲れるタイプでも楽しめるかな?



むしろ、その疲れの正体を客観的に見つめ直す、良いきっかけになるかもしれません。
普段は見ないようにしている人間の感情に、安全な場所からじっくりと向き合いたい。
そう考えるあなたにこそ、読んでほしい一冊です。
読むタイミングに注意が必要な人
一方で、この本は読む人の精神状態に大きく影響を与えるため、手に取るタイミングには注意が必要です。
心が健やかで、物語の闇を受け止める余裕がある時に読むことをお勧めします。
もし現在、仕事のプレッシャーで精神的に追い詰められていたり、現実の人間関係で深く悩んでいたりするならば、読むのは少し待った方が良いでしょう。
登場人物の負の感情に自身の状況を重ねてしまい、必要以上に気分が落ち込む恐れがあります。



最近ちょっと仕事で疲れてるんだけど、やめておいた方がいいかな…



でしたら、気持ちが上向いた週末などに、万全の態勢で臨むのがおすすめです。
これは作品の質が低いという意味では全くありません。
むしろ、それだけ読者の心に深く作用する力を持っている証拠なのです。
購入前に雰囲気を知るための試し読み
レビューを読んでも購入を決めかねるなら、試し読みで作品全体の不穏な空気感を直接確かめるのが最も確実な方法です。
百聞は一見にしかず、文章のトーンや描写の質感を肌で感じられます。
AmazonのKindleストアや楽天Kobo、hontoといった主要な電子書籍ストアの多くでは、冒頭部分を無料で読むことが可能です。
最初の数ページを読むだけでも、この物語が持つ独特の気持ち悪さや、引き込まれるような緊張感を十分に感じ取れます。



試し読みって、どこでどれくらい読めるんだろう?



主要な電子書籍ストアなら、冒頭の1話の途中くらいまで読めることが多いですよ。
自分にとって「面白い」と感じるタイプの怖さなのか、それとも「ただ不快なだけ」と感じるのかを判断する良い材料になります。
電子書籍で今すぐ読む選択肢
試し読みで興味が湧いたら、思い立ったその瞬間に物語の世界へ没入できる電子書籍が便利な選択肢となります。
書店に足を運ぶ手間も、売り切れの心配もありません。
電子書籍であれば、お持ちのスマートフォンやタブレットですぐにダウンロードして読み始められます。
通勤中の電車の中や、寝る前のベッドの上など、隙間時間を使って少しずつ読み進められるのも大きな利点です。



紙の本と電子書籍、どっちで読むのがおすすめとかある?



すぐに読みたい気持ちと、本棚に並べたい所有欲、どちらを優先するかで選ぶのが良いでしょう。
もちろん、紙のページをめくる感触や、本棚に並べる喜びを重視する方は単行本を選ぶのも素敵です。
あなたの読書スタイルに合った方法で、この刺激的な物語を体験してください。
よくある質問(FAQ)
- この小説に、あっと驚くような「どんでん返し」はありますか?
-
本作は、最後にすべてがひっくり返るような派手などんでん返しが主体の物語ではありません。
それよりも、各短編に散りばめられた伏線が最終話で繋がり、作品全体の不気味な構図が浮かび上がる構成の巧みさが魅力です。
日常に潜む悪意がじわじわと明らかになる過程に、ミステリーとしての面白さがあります。
- 殺人事件の犯人を探すようなミステリーが読みたいのですが…
-
この作品は、殺人事件が起きて犯人を探すといった王道のミステリーとは異なります。
描かれているのは、登場人物たちの心の内にある嫉妬や見栄といった感情が引き起こす、人間関係の歪みです。
人の心の怖い部分に焦点を当てた、心理ミステリーとして楽しむことができます。
- 読んだ後の「後味悪い」感じはどのくらい強いのでしょうか?
-
読後感は人によりますが、多くの感想で「胸糞」「気持ち悪い」と評されるように、読後に明るい気持ちにはなれません。
人間の嫌な部分を生々しく突きつけられるため、心にずしりと重いものが残る可能性があります。
気分が晴れない時や、すっきりしたい時には不向きな作品です。
- 登場人物に共感して感情移入できますか?
-
登場人物の心理描写は非常にリアルなため、「自分にもこういう一面があるかもしれない」と共感できる部分は見つかるでしょう。
しかし同時に、彼らの自己中心的な言動には強い嫌悪感を抱くはずです。
共感と嫌悪の間で心が揺さぶられる、複雑な読書体験が本作の評価される点と言えます。
- 物語の結末は、すべての謎が解けてスッキリするのですか?
-
各物語のつながりは最終的に明らかになり、伏線は回収されます。
しかし、登場人物たちが抱える問題が解決するような、分かりやすい結末ではありません。
むしろ、物語が終わった後も、彼らの日常に潜む悪意が続いていくことを予感させる、不穏な余韻が残ります。
- 連作短編集とのことですが、好きな話から読んでも楽しめますか?
-
それぞれが独立した物語としても成立しますが、この作品の本当の面白さは、前の話の登場人物や出来事が次の話に影響を与えていく構成にあります。
物語を最大限に味わうためには、第1話から順番通りに読み進めることを強くおすすめします。
まとめ
芦沢央さんの小説『汚れた手をそこで拭かない』は、私たちの日常に潜む悪意が静かに伝染していく様子を描いた、5つの物語からなる連作短編集です。
この本の最大の魅力は、「後味が悪いのに面白い」と評される、その強烈で忘れがたい読書体験にあります。
- 誰もが持つ心の闇を映し出す、背筋が凍るほどリアルな心理描写
- 5つの独立した物語が繋がり、一つの不気味な構図が浮かび上がる巧みな構成
- 心に割り切れない感情が残る、イヤミスならではの独特な読後感
本作は、読後にすっきりしたい方ではなく、人間の複雑さや心の闇をじっくりと味わいたい方に向けた作品です。
もしあなたがこの独特の世界観に興味を持ちつつも、自分に合うか少し不安に感じるなら、まずは電子書籍などの試し読みで、その不穏な空気感に触れてみてはいかがでしょうか。