この記事では、ミステリーの女王アガサ・クリスティが描く『そして誰もいなくなった』の全真相と、真犯人ウォーグレイヴ判事が仕組んだ驚愕のトリックのすべてを完全ネタバレで徹底解説します。
童謡「十人の兵隊」になぞらえた連続殺人の詳細や、法で裁けない悪を断罪した犯行の動機、そして読者を混乱させた「死の偽装」の仕組みを紐解き、あなたが物語の結末に心から納得できるよう情報を整理しました。
登場人物が多くて混乱してしまい、犯人がどうやって死んだふりをして最後に自殺したのかよくわからないのです



アームストロング医師を利用した心理的な誘導とゴム紐を使った物理的な密室トリックを解説し、すべての謎を解き明かします
- 真犯人ウォーグレイヴ判事の正体と歪んだ正義感
- 医師と共謀して実行した死の偽装トリックの仕組み
- 被害者10人の過去の罪と童謡に見立てた殺害順序
- ゴム紐と眼鏡を使用して自殺を他殺に見せかけた方法
【完全ネタバレ】真犯人の正体と物語の真相
この物語の結末における最大の衝撃は、兵隊島で起きた惨劇の首謀者が、被害者の一人と思われていたローレンス・ジョン・ウォーグレイヴ判事であるという事実です。
迷宮入り確実と思われた事件の裏に隠された、一人の天才的な犯罪者の狂気と論理を詳細に解き明かします。
驚愕の真犯人であるローレンス・ジョン・ウォーグレイヴ判事
ウォーグレイヴ判事とは、長年にわたり法廷で被告を裁いてきた厳格な経歴を持ち、その裏で自らの手による処刑を渇望していた「正義の殺人鬼」です。
彼は自身の余命が短いことを悟り、法では裁けない9人の罪人を選び出して、自分も含めた壮大な処刑計画を実行に移しました。
| ウォーグレイヴ判事の人物像と特徴 |
|---|
| 冷徹な論理的思考力と卓越した演技力 |
| 幼少期から抱いていた生物への加虐趣味 |
| 法の正義を遵守しようとする矛盾した倫理観 |
| 計画を芸術として完成させたいという自己顕示欲 |
死んだはずの判事がどうして生きていたことになっているのですか?



アームストロング医師を協力者として利用し、偽の死亡診断をさせることで死んだふりを成功させました
判事という社会的地位と老人という弱者の立場を利用し、周囲の警戒を解くことに成功しています。
生存者がゼロとなり迷宮入りした事件
迷宮入りとは、警察の捜査をもってしても犯人を特定できず、事件の真相が永遠の謎として処理されてしまう事態を指します。
スコットランド・ヤードの捜査官たちは島に残された10具の遺体と日記を精査しましたが、犯行時刻や死因の矛盾により、物理的に犯人を特定できませんでした。
| 警察を困惑させた捜査上の矛盾点 |
|---|
| 最後に死んだはずの人物が自殺している |
| 最後の人物が死んだ後に椅子を片付けた痕跡がある |
| 島への出入りや隠れ場所が物理的に存在しない |
| 指紋や凶器の扱いが論理的に説明できない |
全員死んでしまったら警察はどうやって犯人を探すのですか?



犠牲者が残した日記や現場状況から推理しますが、矛盾だらけでお手上げ状態となります
外部からの侵入者がいない密室状況で全員が死亡しているため、論理的な解決は不可能な状態に陥りました。
真実を記したボトルメッセージの発見
ボトルメッセージとは、判事が自身の犯罪計画の全貌と動機を詳細に記し、海へと流した「犯行の告白文」のことです。
事件から時が経ち、トロール漁船の船長によって1本の瓶が拾い上げられたことで、ようやくこの不可解な事件の真相が白日の下に晒されました。
| 告白文によって判明した事実 |
|---|
| 判事はアームストロング医師と共謀していた |
| 第6の死者である判事の死は偽装だった |
| 最後の自殺にはゴム紐を使ったトリックを用いた |
| 犯行の動機は法で裁けない悪を裁くことだった |
犯人は完全犯罪をしたのになぜ自白の手紙を残したのですか?



自分の作り上げた完璧な犯罪芸術を、世界の誰かに知ってほしいという画家のサインのような欲求です
この手紙が発見されなければ、兵隊島の惨劇は人類史上最も不可解なミステリーとして語り継がれていたことになります。
兵隊島に集められた10人の招待客と過去の罪
孤島に集められた10人の共通点は、全員が過去に「法では裁くことのできない殺人」を犯しているという重大な秘密を抱えていることです。
正体不明の招待主は、彼らの罪の重さや性質を綿密に調査し、ターゲットを選定しました。
以下の表は、各人物が背負っている過去の罪状と被害者をまとめた一覧表です。
| 人物名 | 職業・肩書き | 殺害した被害者 | 罪の概要 |
|---|---|---|---|
| ウォーグレイヴ | 元判事 | エドワード・シートン | 死刑判決への誘導 |
| ヴェラ | 家庭教師 | シリル・ハミルトン | 溺死の誘発 |
| ロンバード | 元陸軍大尉 | 東アフリカの先住民 | 食料持ち逃げによる餓死 |
| エミリー | 老婦人 | ベアトリス・テイラー | 自殺への追い込み |
| マカーサー | 元将軍 | アーサー・リッチモンド | 死地への派兵 |
| アームストロング | 医師 | ルイーザ・メアリ・クリーア | 酩酊手術による医療ミス |
| マーストン | 青年 | ルーシーとジョン | 危険運転致死 |
| ブロア | 元警部 | ジェームズ・ランドー | 偽証による獄死 |
| トマス・ロジャース | 執事 | ジェニファー・ブレイディ | 投薬放置による病死 |
| エセル・ロジャース | 料理人 | ジェニファー・ブレイディ | 夫の殺人に加担 |
招待客たちは島へ到着した最初の夜、レコードから流れる謎の声によってこれらの罪を告発され、恐怖のどん底に突き落とされます。
不当な判決で被告を死刑に追いやったウォーグレイヴ判事
ローレンス・ジョン・ウォーグレイヴは、多くの犯罪者を裁いてきた冷徹な元刑事裁判官です。
過去の裁判において、陪審員に心証操作を行い、エドワード・シートンという一人の被告を有罪へ導き死刑を執行させました。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 被害者 | エドワード・シートン |
| 死因 | 絞首刑(死刑執行) |
| 罪の性質 | 法の番人という立場を悪用した合法的殺人 |
判事は正義の人に見えるのに裏の顔があったの



法を利用して私的な殺人を犯したと見なされました
社会的な地位と法律を利用した完全犯罪でしたが、この断罪を機に物語の悲劇が始まります。
恋人のために教え子を溺死させたヴェラ・クレイソーン
ヴェラ・エリザベス・クレイソーンは、女子校の体育教師や家庭教師を務める才気活発な女性です。
以前勤めていた家庭で、病弱な教え子のシリル・ハミルトンに危険な岩場までの遊泳を許可し、意図的に溺死させました。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 被害者 | シリル・ハミルトン(少年) |
| 死因 | 海での溺死 |
| 動機 | 恋人ヒューゴーが遺産を相続できるようにするため |
事故のように見えたのに実は故意だったなんて



救助に向かうふりをして確実に死ぬよう遅れて到着しました
罪悪感と恋人を失った絶望に苛まれ続け、最後には精神錯乱状態で自らの命を絶ちます。
食料を持ち逃げし部下を見捨てたフィリップ・ロンバード
フィリップ・ロンバードは、危険な任務を請け負ってきた元陸軍大尉です。
東アフリカでの任務中、食料が尽きた極限状態で、現地の部下である21人の先住民を置き去りにして自分だけ食料を持って逃走しました。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 被害者 | 東アフリカ部族の男たち21人 |
| 死因 | 餓死 |
| 罪の性質 | 自己保身のための冷酷な見殺し |
21人もの部下を見殺しにするなんて冷酷すぎる



生存本能を優先し悪びれる様子を見せない人物として描かれます
最後まで生き残るためにヴェラと対峙しますが、彼女に撃たれて死亡します。
妊娠した使用人を追い出し自殺させたエミリー・ブレント
エミリー・キャロライン・ブレントは、極めて厳格な規律を重んじる信仰心の厚い老婦人です。
自身の元で働いていたメイドのベアトリス・テイラーが妊娠したことを知るや否や、ふしだらだとして容赦なく解雇し路頭に迷わせました。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 被害者 | ベアトリス・テイラー |
| 死因 | 川への投身自殺 |
| 罪の性質 | 狂信的な道徳観による精神的殺人 |
直接手を下したわけではないのに罪になるの



精神的に追い詰めた行為が殺人同等と判断されました
自らの正義を疑わない頑固な態度を崩しませんでしたが、孤立した状態で毒殺されます。
妻の愛人だった部下を死地に送ったマカーサー将軍
ジョン・ゴードン・マカーサーは、第一次世界大戦での功績を持つ退役した老将軍です。
愛する妻が部下のアーサー・リッチモンドと不倫関係にあることを知り、報復としてリッチモンドを戦死することが確実な最前線へ送り込みました。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 被害者 | アーサー・リッチモンド |
| 死因 | 戦死 |
| 動機 | 妻を奪われたことへの嫉妬と復讐 |
戦死ならただの不幸な事故として処理されそう



指揮官の権限を私怨で乱用した点が罪に問われました
島で孤立する中で過去を悔やみ、誰よりも早く死を受け入れる姿勢を見せます。
酩酊状態の手術で患者を死なせたアームストロング医師
エドワード・ジョージ・アームストロングは、ロンドンで診療所を構える社会的地位の高い医師です。
かつてアルコール中毒だった時期に、酩酊状態でルイーザ・メアリ・クリーアの手術を行い、医療ミスによって患者を死なせました。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 被害者 | ルイーザ・メアリ・クリーア |
| 死因 | 手術中のミスによる死亡 |
| 罪の性質 | 医師としての倫理欠如と事実の隠蔽 |
お酒を飲んで手術をするなんて信じられない



地位と名誉を守るためにミスを隠し通していました
真犯人の甘言に乗せられて協力者となりますが、最後は海へ突き落とされ溺死します。
危険運転で子供2人を轢き殺したアンソニー・マーストン
アンソニー・ジェームズ・マーストンは、容姿端麗で享楽的な富裕層の青年です。
スピード狂であり、公道で無謀な運転をした結果、ルーシーとジョンという2人の幼い子供を轢き殺してしまいました。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 被害者 | ルーシーとジョン(コンベス兄妹) |
| 死因 | 交通事故による即死 |
| 罪の性質 | 不注意と反省の欠如 |
子供を轢いておいて反省していない様子が怖い



単なる不運だったと語る傲慢さが処刑の引き金となります
罪の意識が最も希薄だったためか、最初の犠牲者として毒入り酒で窒息死させられます。
偽証によって無実の人間を獄死させたウィリアム・ブロア
ウィリアム・ヘンリー・ブロアは、元警察官で現在は私立探偵を営む恰幅の良い男性です。
警部時代に銀行強盗事件を担当した際、出世のために偽証を行い、無実のジェームズ・ランドーに罪を着せて刑務所で病死させました。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 被害者 | ジェームズ・ランドー |
| 死因 | 獄中死 |
| 動機 | 警察内での昇進と保身 |
警察官が嘘をついて無実の人を捕まえたの



私利私欲のために公的な捜査を歪めた汚職です
探偵としての勘を働かせて犯人を探りますが、裏をかかれて頭上から時計を落とされ圧死します。
以前の主人を見殺しにして遺産を得たトマス・ロジャース
トマス・ロジャースは、兵隊島の屋敷に雇われた有能な執事です。
以前仕えていた病弱な老婦人ジェニファー・ブレイディの発作時に、意図的に薬を与えず医師への連絡を遅らせて死なせました。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 被害者 | ジェニファー・ブレイディ |
| 死因 | 持病の発作(心不全) |
| 動機 | 遺産の一部を受け取るため |
薬を渡さないだけで殺せるなんて証明が難しそう



何もしないこと(不作為)による完全犯罪を目論みました
妻の死後も平静を装って働き続けましたが、薪割りの最中に背後から斧で襲われます。
夫と共謀して殺人に加担したエセル・ロジャース
エセル・ロジャースは、トマスの妻であり屋敷の料理人を務める神経質な女性です。
夫であるトマスが雇い主を見殺しにする計画に協力し、犯行を黙認することで共犯関係となりました。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 被害者 | ジェニファー・ブレイディ |
| 役割 | 夫の犯行の黙認と幇助 |
| 罪の性質 | 主従関係を利用した背信行為 |
夫に従っただけで彼女に殺意はなかったのかも



罪の意識に苛まれており恐怖の中で最初の夜に亡くなります
恐怖心から精神的に不安定になっており、就寝中にオーバードーズ(薬物過剰摂取)に見せかけて殺害されました。
童謡「十人の兵隊」になぞらえた殺害の順序
本作品の最大の特徴は、マザーグースの童謡「十人の小さな兵隊さん」の歌詞になぞらえて、予告通りに殺人が実行されるという不気味な演出にあります。
犯人は緻密な計画のもと、以下の順序と方法で10人の命を奪いました。
| 順序 | 被害者名 | 童謡の内容 | 実際の死因 |
|---|---|---|---|
| 1 | アンソニー・マーストン | 喉を詰まらせて | 青酸カリによる毒殺 |
| 2 | エセル・ロジャース | 寝過ごして | 抱水クロラールによる毒殺 |
| 3 | ジョン・マカーサー | 向こうに残って | ライフプリザーバーによる撲殺 |
| 4 | トマス・ロジャース | 薪を割って | 手斧による撲殺 |
| 5 | エミリー・ブレント | 蜂に刺されて | シアン化物注射による毒殺 |
| 6 | ローレンス・ウォーグレイヴ | 法律の勉強をして | 額を撃ち抜かれたような偽装死 |
| 7 | エドワード・アームストロング | 燻製ニシンに飲まれて | 崖から突き落とされ溺死 |
| 8 | ウィリアム・ブロア | 熊に抱かれて | 大理石の時計落下による圧死 |
| 9 | フィリップ・ロンバード | 日に焼かれて | ヴェラによる銃殺 |
| 10 | ヴェラ・クレイソーン | 首を括って | 精神錯乱による首吊り自殺 |
このように、犯人は童謡の歌詞を完璧に再現することで、ターゲットを精神的に追い詰めていきました。
毒薬による窒息と就寝中の死で幕を開けた第一の夜
物語の発端となる最初の犠牲者は、若さと美貌を持ちながら道徳心の欠如したアンソニー・マーストンです。
彼は夕食後の談笑中に酒を一口飲んだ直後、激しい痙攣を起こして絶命しました。
グラスには即効性の猛毒である青酸カリが混入されており、童謡の「一人が喉を詰まらせて」という歌詞通りの死に様を見せつけます。
続いて翌朝には、料理人のエセル・ロジャースがベッドの中で冷たくなっているのが発見されました。
彼女は夫によって致死量の睡眠薬「抱水クロラール」を投与され、歌詞にある「一人が寝過ごして」のとおり、二度と目を覚ますことはありませんでした。
この2つの死は、まだ事故や自殺として処理できる可能性を残していましたが、食卓の人形が2つ減っている事実に気づいた時、生存者たちは殺人の意図を確信します。
最初の二人が死んだ時点では、まだ誰も連続殺人だとは気づいていなかったのですか



最初は偶然の事故や自殺だと思われていましたが、人形が減っていることに気づき、彼らは戦慄することになります
これら初期の犯行は、犠牲者の警戒心が薄いうちに行われたため、犯人にとっては比較的容易なミステリーの幕開けとなります。
凶器による打撃で命を落とした将軍と執事
島が嵐で完全に孤立し、助けが来ない絶望的な状況下で、マカーサー将軍と執事のロジャースは鈍器による物理的な攻撃で命を落とします。
マカーサー将軍は、過去の罪への後悔から「もうここを出られない」と死を予感して海岸に佇んでいたところを、背後から重い凶器(ライフプリザーバー)で頭部を殴打されました。
彼の死は「一人が向こうに残って」という歌詞に対応しています。
執事のトマス・ロジャースは、妻の死後も気丈に振る舞っていましたが、翌朝の薪割り作業中に背後から襲われます。
彼は洗濯小屋で、自身が使用していた斧によって頭を割られて殺害されました。
歌詞の「一人が薪を割って」を忠実に再現した残酷な手口は、犯人が物理的な力を行使できる人物であることを示唆しています。
| 被害者 | 殺害場所 | 状況 | 童謡との関連 |
|---|---|---|---|
| マカーサー将軍 | 海岸 | 海を見ている最中に背後から一撃 | 向こう(あの世)に残る |
| トマス・ロジャース | 洗濯小屋 | 朝の薪割りをしている最中に一撃 | 薪を割る |
外部からの侵入者がいないとわかっているのに、殴り殺されるなんて怖すぎます



お互いに疑心暗鬼になっている中で、一瞬の隙をついて撲殺を実行する犯人の冷徹さが際立ちます
これ以降、残された人々は互いに片時も離れず行動しようと提案しますが、犯人の魔手は止まりません。
注射と罠により殺害された老婦人と元警部
狂信的なまでの信仰心を持つエミリー・ブレントと、元警部であるウィリアム・ブロアは、犯人が仕掛けた狡猾な罠と不意打ちによって殺害されます。
エミリーは昼食後、めまいを感じて食堂に一人で残っていたところを襲われました。
窓の外を飛ぶ蜂に気を取られている隙に、背後から首筋へシアン化物を注射されたのです。
現場には実際に蜂が放たれており、「蜂に刺されて」という歌詞を実現するための犯人の執念がうかがえます。
物語の終盤、ウィリアム・ブロアは他の生存者と別れて屋敷に戻った際、頭上からの落下物によって即死しました。
犯人はヴェラの部屋にあった熊の形をした巨大な大理石の時計を窓から落とし、テラスにいたブロアの頭部を粉砕します。
「熊に抱かれて」という歌詞を、熊の時計による圧死で見事に表現したのです。
ブロアさんは元警部で力も強そうなのに、あっけなくやられてしまったのですか



物理的な強さを持つ彼でさえ、見えない死角からの攻撃には対処できず、罠にかかってしまいました
この時点で生存者はわずかとなり、彼らの精神状態は極限まで追い詰められていきます。
アームストロング医師の溺死と判事の偽装死
物語最大のトリックであり、事件を迷宮入りさせた要因は、ウォーグレイヴ判事による「死の偽装」とアームストロング医師の溺死にあります。
判事はアームストロング医師を言葉巧みに操り、「真犯人を油断させるために私が殺されたふりをする」という作戦を持ちかけました。
医師はこの提案に乗り、判事が銃殺されたように見せかける芝居に協力して、他の生存者に「判事は死んだ」と誤った死亡宣告を行います。
これにより、判事は「死体」として捜査の対象外となり、自由に行動できる立場を手に入れました。
その後、判事は協力者であった医師を深夜に呼び出し、崖から海へ突き落として殺害します。
医師の遺体はしばらく発見されず、童謡の「燻製ニシン(=欺瞞、目くらまし)」の歌詞通り、彼の失踪自体が残る生存者を混乱させるトリックとして機能しました。
死んだはずの判事が実は生きていて、裏で糸を引いていたなんて思いつきません



医師という専門家による「死亡確認」があったからこそ、誰もその死を疑うことができなかったのです
こうして判事は自らの手を汚すことなく、生存者同士が殺し合うよう仕向け、完全犯罪を完成へと導きました。
犯人が仕組んだ完全犯罪のトリックと動機
この事件の真相における核心は、犯人であるウォーグレイヴ判事が仕掛けた心理的な盲点を利用した誘導と物理的な偽装工作にあります。
彼は卓越した知能と計画性をもって、警察や読者が「これは不可能犯罪である」と錯覚するように仕向けました。
その全貌を構成する要素を以下に整理します。
| 構成要素 | 内容 |
|---|---|
| 心理トリック | 医師を利用した「死の偽装」により容疑者リストから外れる |
| 物理トリック | ゴム紐を用いた自動運搬装置で自殺を他殺に見せかける |
| 犯行の動機 | 法で裁ききれない罪人たちへの断罪と芸術的な殺人の実現 |
| 実行の背景 | 自身の余命がわずかであることを悟り計画を実行に移した |
これら複数の要素が複雑に絡み合うことで、兵隊島での惨劇は誰にも解けない迷宮入りの事件として完成しました。
医師を共犯者に仕立て上げた心理的な誘導
ウォーグレイヴ判事が行った最大の心理トリックとは、アームストロング医師を協力者として利用し、自身の死を演出された偽りの出来事として周囲に認識させたことです。
判事は医師に対して「真犯人を油断させて炙り出すために、私が被害者になったふりをする芝居を打とう」と持ちかけました。
判事はこの作戦において、医師の権威に対する弱さと追い詰められた心理状態を巧みに利用しています。
医師は判事の計画を全面的に信頼し、判事が殺されたふりをした際に、他の生存者に対して「銃で撃たれて即死している」と嘘の死亡診断を下しました。
| 心理誘導のプロセス |
|---|
| 1. 判事が医師に「犯人を罠にかける計画」を持ちかける |
| 2. 深夜に判事がおでこに泥を塗り、殺されたふりをする |
| 3. 医師が検死を行い、生存者たちに「判事は死亡した」と嘘をつく |
| 4. 生存者が判事を「死体」と認識し、監視の対象から外す |
| 5. 判事は死体と思わせたまま自由に行動し、殺人を継続する |
アームストロング医師はなぜあんなに簡単に騙されてしまったの?



彼自身が過去の罪と極限状況でパニックになっており、冷静な判事の提案にすがるしかなかったからです
利用価値のなくなった医師を海へ突き落として殺害した瞬間、判事は誰からも疑われない透明人間のような存在となりました。
ゴム紐と眼鏡を使用した自殺の物理トリック
物語の結末で犯人が用いたのは、自身の自殺を他殺に見せかけるためのゴム紐と眼鏡を組み合わせた物理的な遠隔装置です。
警察が現場検証を行った際、死体の手元に拳銃が落ちていれば即座に「犯人は自殺した」と露見してしまいます。
判事は自らのこめかみを撃ち抜いた直後、拳銃が自動的にドアの方向へ引き寄せられるように細工し、凶器を自分の手元から消滅させました。
眼鏡やハンカチを使用したのは、指紋を残さず、かつ装置がスムーズに作動するように摩擦を調整するためです。
- ピストルをハンカチで包み、長いゴム紐を結びつける
- ゴム紐の一端を部屋のドアノブにしっかりと固定する
- ゴム紐を自分の眼鏡の下に通して頭を固定する位置に調整する
- 銃の引き金を引くと同時に手が離れ、ゴムの弾力で銃がドアへ飛ぶ
- 銃はドアの外や離れた場所に落ち、自殺の痕跡が消える
銃が手元に落ちていたら自殺だとすぐにバレてしまうから工作したの?



その通りです。警察に「この部屋の人間も被害者の一人だ」と誤認させるためには、武器を隠す必要がありました
ゴム紐自体も眼鏡の下敷きになるなどして目立たないように工夫されており、この物理トリックによって「犯人不在」の状況が完成します。
法で裁けない悪人を断罪する歪んだ正義感
ウォーグレイヴ判事の犯行を根本で支えていたのは、極めて厳格で妥協を許さない異常なまでの正義感です。
彼は法の番人として長年勤めてきましたが、証拠不十分などの理由で法律が裁くことのできなかった殺人者たちがのうのうと生きていることに激しい憤りを抱いていました。
彼が選んだ10人のターゲットは全員、過去に殺人に匹敵する行為を行いながらも、法の網をすり抜けて罰を受けなかった者たちです。
判事は彼らを孤島という処刑場に集め、彼らの罪の重さに応じた苦しみを与えながら処刑を実行しました。
| 動機を構成する二つの側面 |
|---|
| 強烈な正義欲 |
| 残虐な殺人衝動 |
彼は自分勝手な理屈で殺人を犯したただの殺人鬼ではないの?



彼の論理では「正義の執行」こそが絶対的な目的であり、最後に自分自身も処刑することで完結させています
この歪んだ倫理観こそが、無差別殺人ではなく特定の罪人を狙った計画的犯行を生み出す原動力となりました。
自身の死期と芸術的な殺人を融合させた計画
判事がこの壮大な犯罪計画を実行に移す直接的なトリガーとなったのは、自身が不治の病に侵され、余命いくばくもないという医師の宣告でした。
彼は死を目前にして、以前から心の中で温めていた殺人計画を現実に移すことを決意します。
彼は自らの死すらもトリックの一部として組み込み、誰にも解くことのできないミステリーを完成させることで、自身の人生を一つの芸術作品として昇華させようとしました。
ボトルメッセージを海に流したのも、自分の成し遂げた「偉業」をいつか誰かに知ってほしいという自己顕示欲の表れです。
- 医師から不治の病を宣告され、死期を悟る
- 溜め込んでいた殺人衝動と正義感を満たす計画を立案する
- 被害者の選定や島の購入など、周到な準備を行う
- 自身の死(自殺)を物語の結末(オチ)として配置する
- 全員死亡という「不可能犯罪」を後世に残すことを夢見る
病気じゃなかったらこんな恐ろしい事件は起こさなかったということ?



おそらく実行には移さず、頭の中で完全犯罪をシミュレーションして楽しむだけに留まっていたはずです
死への恐怖ではなく、死を演出する喜びに変換した彼の執念が、ミステリー史に残る傑作を生み出しました。
『そして誰もいなくなった』の作品概要
ミステリーの女王アガサ・クリスティが1939年に発表し、孤島という閉鎖空間で起こる「クローズド・サークル」の金字塔として名高い傑作小説です。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 原題 | And Then There Were None |
| 著者 | アガサ・クリスティ |
| 発行年 | 1939年 |
| ジャンル | クローズド・サークル・ミステリー |
| 舞台 | 兵隊島 |
| 累計発行部数 | 1億冊以上 |
時代を超えて読み継がれる本作の魅力と、驚異的な実績について解説します。
アガサ・クリスティが描く孤島ミステリーの傑作
クローズド・サークルとは、吹雪の山荘や絶海の孤島のように、外界との往来が断絶された状況下で事件が進行するミステリーの形式を指します。
外部からの救援が望めず、逃げ場のない「兵隊島」に集められた10人の男女が、童謡の歌詞になぞらえて次々と殺害されていく恐怖は圧巻です。
外部から助けが来ない状況で、犯人が見つからないなんて本当に怖いですね



逃げ場のない極限状態での心理描写と、徐々に追い詰められていくスリルこそが本作の最大の魅力です
| 要素 | 設定 |
|---|---|
| 舞台設定 | デヴォン州沖の孤島「兵隊島」 |
| 登場人物 | 互いに面識のない10人の男女 |
| 殺人手法 | 童謡「十人の兵隊」に見立てた連続殺人 |
| 特殊状況 | 嵐により島が孤立し警察が介入できない |
恐怖と謎が完璧に計算されたプロットは、多くの読者を物語の世界へ引き込みます。
世界中で1億冊以上発行された不朽の評価
ベストセラーとは、国や時代を超えて広く読まれ、極めて多くの販売部数を記録した書籍のことです。
聖書やシェイクスピアに次ぐと言われるクリスティ作品の中でも、本作は単独で1億冊以上という驚異的な発行部数を誇り、世界で最も売れたミステリー小説として知られています。
昔の作品なのに、どうして今でもこんなに評価が高いのでしょうか



緻密に構築された「論理的な謎解き」と、人間の罪悪感を問う「普遍的なテーマ」が描かれているからですよ
謎の声が10人の過去の犯罪を告発してその結果が登場人物の死を招いたことに言及し、「あなたは信じられないだろうが読み進めると確かにそれが起きて、そしてさらに読み進めると信じられない出来事が次々と起きていく。全ての出来事が完全に不可能で、完全に魅力的である。それはアガサ・クリスティが今までに書いた中で最も難解なミステリであり、もし他の作家がその純粋なミステリを上回っているなら、その作家の名前は私達の記憶から忘却されている。私達は、もちろん、そのミステリのあるがままに論理的な物語を読んでいる。それは長い物語であるが、確かに起きた出来事だった。」
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%81%9D%E3%81%97%E3%81%A6%E8%AA%B0%E3%82%82%E3%81%84%E3%81%AA%E3%81%8F%E3%81%AA%E3%81%A3%E3%81%9F
(『The New York Times Book Review』 アイザック・アンダーソン / 1940年2月25日)
サスペンスと脅迫的な探偵物語を兼ね備えたスリラーであり、閉ざされた空間での連続した殺人は本作では論理的な結論に至り、読者たちの不毛な推測や論争を回避している。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%81%9D%E3%81%97%E3%81%A6%E8%AA%B0%E3%82%82%E3%81%84%E3%81%AA%E3%81%8F%E3%81%AA%E3%81%A3%E3%81%9F
(ロバート・バーナード)
批評家からも読者からも、ミステリー史に残る最高傑作としての評価を確立しています。
映像化作品によって変更される結末の違い
戯曲版とは、演劇として上演するために、著者であるクリスティ自身が脚本を書き直したバージョンのことです。
原作小説では全員が死亡する衝撃的な結末を迎えますが、1943年の戯曲版や多くの映画作品では、2人の登場人物が生き残り、結ばれるハッピーエンドに変更されています。
ドラマや映画で見たときはハッピーエンドだった気がして、小説との違いに驚きました



舞台での後味の良さを考慮したり、ロマンス要素を強調したりするために、あえて結末が改変されているのです
| 比較項目 | 原作小説 | 戯曲・映画版(一部) |
|---|---|---|
| 生存者 | なし(全員死亡) | あり(ヴェラとロンバードなど) |
| 結末の印象 | 絶望的で冷徹 | 希望やロマンスが含まれる |
| 真犯人の最期 | 自殺して迷宮入りを狙う | 生存者に追い詰められる場合がある |
媒体によって異なるエンディングを楽しめるのも、この物語が持つ懐の深さです。
まとめ
この記事では、アガサ・クリスティの最高傑作『そして誰もいなくなった』における真犯人ウォーグレイヴ判事の正体と、彼が仕掛けた死の偽装と密室トリックの仕組みについて解説しました。
- アームストロング医師を共犯者に仕立て上げて自身の死を演出した心理的な誘導
- ゴム紐と眼鏡を使用して自殺を他殺に見せかけることで完成させた物理トリック
- 法で裁けない悪人を断罪するという目的と自身の死期が重なって生まれた動機
犯人が仕組んだ罠の全容を理解した上で、伏線がどこに隠されていたのかを探しながら、もう一度この物語を最初から読み返してみてください。









