町田その子の52ヘルツのクJラたち｜ネタバレなしのあらすじと心揺さぶる感想

2021年の本屋大賞を受賞した町田そのこさんの小説『52ヘルツのクジラたち』は、誰にも届かない声で泣く人々の孤独に寄り添い、希望を描く物語です。

この記事では、ネタバレなしのあらすじや登場人物紹介はもちろん、多くの人の心を掴んだ理由や、杉咲花さん主演で話題の映画版の見どころまで、作品の魅力を余すところなく解説します。

なぜ心を打つのか 「52ヘルツのクジラたち」3つの魅力

この物語が多くの読者の心を掴んで離さない最大の理由は、誰にも届かない声で泣く人々の孤独に深く寄り添っているからです。

現代社会が抱える痛みに目を背けることなく、絶望の淵からでも人は再生できるという温かい希望を描き出しています。

その感動は、全国の書店員が選ぶ「本屋大賞」受賞という形で証明されました。

世界で最も孤独なクジラに重ねる声なき叫び

本作のタイトルにある「52ヘルツのクジラ」とは、他の仲間には聞こえない特殊な周波数で鳴く、実在するクジラを指します。

その声が誰にも届かないことから、「世界で最も孤独なクジラ」と呼ばれています。

この物語は、主人公の貴瑚や虐待によって言葉を失った少年が抱える、誰にも届かない心の叫びを、このクジラの姿に重ね合わせて描いているのです。

自分の声が誰にも届かないという絶望的な孤独感は、多くの人が一度は感じたことのある感情ではないでしょうか。

だからこそ、登場人物たちの声なき声に耳を澄ませる物語の姿勢が、読者の心を強く打つのです。

児童虐待や毒親といった社会の痛みへの直視

この物語の魅力は、美しいだけではありません。

児童虐待や毒親、ヤングケアラーといった、現代社会が抱える目を背けたくなるような痛ましい問題に、真正面から向き合っている点にあります。

主人公の貴瑚は母親から育児放棄され、家族に人生を搾取されてきました。

彼女が出会う少年もまた、母親から「ムシ」と呼ばれ、その存在を否定され続けています。

こうした過酷な現実がリアルに描かれているからこそ、物語に深みと説得力が生まれるのです。

ただのフィクションとしてではなく、私たちの社会と地続きの問題として描くことで、読者は登場人物の痛みを自分のことのように感じます。

絶望から再生へと向かう希望の物語

これほどまでに重いテーマを扱いながら、物語は決して読者を絶望の底に突き落としたままでは終わらないのが最大の魅力です。

心に深い傷を負った貴瑚は、自分と同じように声なき叫びをあげる少年を救おうとすることで、自分自身の過去とも向き合い、再生への道を歩み始めます。

辛い過去を持つ人間同士が出会い、お互いの孤独な魂を温め合い、支えとなっていく姿は、読む人の心に温かい光を灯してくれます。

どんなに深い闇の中にいても、必ず希望は見出せるという力強いメッセージが、この物語の根幹には流れています。

2021年本屋大賞受賞という客観的な評価

物語の素晴らしさは、主観的な感想だけではなく、客観的な評価によっても証明されています。

2021年の「本屋大賞」受賞は、全国の書店員から「最も売りたい」と熱烈に支持された証です。

さらに、TBS系の情報番組『王様のブランチ』が選ぶ「BOOK大賞2020」、国内最大級の読書サイト「読書メーター」の「読書メーター オブ・ザ・イヤー2020」でも第1位を獲得し、主要な書籍ランキングで3冠を達成しました。

これだけ多くの人々の心を動かしたという事実は、この物語が持つ普遍的な価値を証明しています。

どの本を読もうか迷っている人にとって、安心して手に取れる大きな理由となるでしょう。

物語の世界へ ネタバレなしのあらすじと登場人物

この物語は、誰にも届かない声で泣いている孤独な魂が出会い、寄り添い合うことで希望を見出していく物語です。

中心となるのは、辛い過去を持つ主人公・貴瑚と、言葉を失った一人の少年。

二人の出会いが、互いの運命を大きく動かしていきます。

物語を彩る主な登場人物たちの関係性を紹介します。

登場人物	役割	貴瑚との関係
三島貴瑚	主人公	家族に人生を搾取されてきた過去を持つ
少年（52）	もう一人の主人公	母親から虐待を受け、貴瑚にかつての自分を想起させる
アンさん	貴瑚の恩人	絶望していた貴瑚を救った謎の多い人物
美晴	貴瑚の親友	貴瑚の過去を知る唯一の理解者

彼らの魂の交わりが、切なくも温かい物語を紡ぎ出します。

過去を捨てたどり着いた大分の海辺の町での出会い

自分の人生を家族に搾取されてきた主人公の三島貴瑚は、すべてを断ち切るように東京での暮らしを捨て、大分県の海辺の町へ静かに移り住みます。

そこで彼女は、自分の殻に閉じこもるように生きる一人の少年と出会うのです。

その少年は、母親から「ムシ」と呼ばれ虐待を受け、心を閉ざした結果、言葉を発することができなくなっていました。

彼の瞳に宿る深い孤独と痛みを、貴瑚は見過ごすことができませんでした。

この出会いが、貴瑚の止まっていた時間を再び動かし始めます。

かつての自分自身を見るような少年との出会いは、貴瑚にとって新たな人生の始まりを意味していました。

心に傷を負う主人公・三島貴瑚

この物語の主人公である三島貴瑚は、家族に人生を搾取されてきたという壮絶な過去を背負う女性です。

母親からは育児を放棄され、さらには義理の父の介護を一身に背負わされるなど、自分のための人生を歩むことが許されませんでした。

26歳という若さで、彼女は心身ともに深く傷つき、疲れ果てていました。

そんな貴瑚が、自分と同じように声にならない叫びを抱える少年と出会ったのは、偶然ではなく必然だったのです。

少年を守るという決意は、結果的に貴瑚自身の魂を救済する旅へと繋がっていきます。

虐待により言葉を失った少年

貴瑚が出会う少年は、母親から「ムシ」という名で呼ばれ、日常的に虐待を受けているという過酷な状況にいました。

その暴力は彼の言葉を奪い、誰にも助けを求めることができない深い孤独の底に沈めていたのです。

貴瑚は、そんな彼に世界で最も孤独なクジラになぞらえて「52」という名前を与えます。

この13歳の少年は、貴瑚と出会うことで初めて自分に向けられる温かさに触れ、閉ざした心に少しずつ光を取り戻していくことになります。

彼の存在は、貴瑚の人生を照らす希望の光となり、物語を大きく動かす中心人物となっていきます。

貴瑚の人生を支えるアンさんと友人・美晴

貴瑚の孤独な人生には、彼女を支える二人の大切な存在がいます。

一人は、貴瑚が過去に絶望の淵に立たされていた時、一筋の光のように現れて彼女を救い出してくれたアンさんという人物です。

そしてもう一人が、高校時代からの親友である美晴です。

貴瑚の辛い過去をすべて知る唯一の理解者であり、彼女が新たな町で一歩を踏み出す際にも、その背中を優しく押し続けます。

謎に包まれたアンさんと、変わらぬ友情をくれる美晴の存在が、貴瑚が困難に立ち向かうための大きな力となっているのです。

杉咲花主演で話題 映画版の見どころ

原作の持つ切なくも温かい世界観は、実力派の俳優陣とスタッフによって見事に映像化されました。

映画版の魅力は、登場人物たちの繊細な心の機微を捉えた、魂のこもった演技にあります。

原作ファンはもちろん、この物語に初めて触れる方の心も、きっと強く揺さぶられるはずです。

主演・杉咲花とアンさん役・志尊淳の存在感

主人公・貴瑚を演じるのは、数々の映画賞受賞歴を持つ実力派俳優の杉咲花さんです。

彼女の瞳の奥に宿る深い孤独と、少年と出会ってからの力強い変化を見事に表現しており、観る者の心を掴んで離しません。

一方、貴瑚の人生に大きな影響を与えたアンさん役を務めるのは志尊淳さん。

その一挙手一投足からにじみ出る優しさと儚さが、物語に奥行きと説得力を与えています。

この二人がスクリーンで紡ぎ出す空気感が、物語の核となる「魂の繋がり」を観る者にまっすぐに届けてくれます。

脇を固める宮沢氷魚や西野七瀬ら豪華キャスト陣

物語の世界観を支えているのは、主演の二人だけではありません。

宮沢氷魚さん、西野七瀬さん、小野花梨さん、そしてベテランの倍賞美津子さんといった、世代を超えた豪華な俳優陣が集結しています。

特に、貴瑚の高校時代からの友人・美晴を演じた小野花梨さんの自然な演技は、シリアスな物語の中に温かい空気をもたらす重要な役割を果たしているのです。

役名	俳優
新名主税	宮沢氷魚
牧岡美晴	小野花梨
品城琴美	西野七瀬
三島由紀	真飛聖
岡田典子	余貴美子
村中サチエ	倍賞美津子

それぞれの俳優が役に命を吹き込むことで、原作の持つ重層的な人間ドラマがより深く描き出されています。

監督・成島出が描く原作の世界観

メガホンを取ったのは、『八日目の蝉』や『いのちの停車場』といった作品で知られる人間ドラマの名手、成島出監督です。

監督は、児童虐待やトランスジェンダーといった原作が内包する社会的なテーマから目を逸らすことなく、真摯に映像化しています。

舞台となる大分の美しい自然と、登場人物たちが置かれた過酷な現実との対比が、物語の切なさを一層際立たせるのです。

光と影を巧みに用いた映像表現によって、登場人物たちの声なき叫びが静かに、しかし力強く伝わってきます。

物語の余韻を深めるSaucy Dogの主題歌

映画のエンディングを飾り、物語の感動をさらに深いものにするのは、人気ロックバンドSaucy Dogが書き下ろした主題歌「この長い旅の中で」です。

貴瑚や少年、そしてアンさんの孤独と希望に寄り添うような温かいメロディと歌詞が、観終わった後の心にじんわりと染み渡ります。

映画鑑賞後、この曲を聴くことで、登場人物たちの旅路が自分の人生と重なるような感覚を覚える人も多いです。

この主題歌は、登場人物たちの未来をそっと照らす光のように、観る者の心に温かい希望を灯してくれます。

書籍情報と輝かしい受賞歴

『52ヘルツのクジラたち』がどのような本なのか、そしてどれほど多くの読者の心を掴んだのかは、その輝かしい受賞歴が物語っています。

ここでは、書籍の基本情報と、この作品が獲得した栄誉について詳しく見ていきましょう。

町田そのこ初の長編小説

『52ヘルツのクジラたち』は、作家・町田そのこさんにとって初めての長編小説です。

これまでの作品で培われた筆力が存分に発揮され、児童虐待や毒親といった重いテーマを扱いながらも、希望を感じさせる物語を描き出しました。

この一冊が、町田さんの名を多くの読者に知らしめる大きなきっかけとなりました。

刊行された単行本と文庫版

この物語は、2020年4月に中央公論新社から単行本として刊行され、その後2023年5月には待望の文庫版も発売されました。

自分の読書スタイルに合わせて、どちらの形式で読むか選べるのは嬉しいポイントです。

項目	単行本	文庫版
出版社	中央公論新社	中央公論新社
刊行日	2020年4月21日	2023年5月25日
特徴	ハードカバーで所有感がある	持ち運びやすく手軽に読める

物語の世界にじっくり浸りたい方は単行本を、外出先でも楽しみたい方は文庫版を選ぶと良いでしょう。

本屋大賞を含む3つの文学賞受賞の快挙

この作品が多くの人に愛されている最大の証明は、2021年の本屋大賞を受賞したことにあると言えます。

全国の書店員が「いちばん売りたい本」を選ぶこの賞は、作品の面白さと感動を保証するものです。

受賞歴	年
2021年 本屋大賞	2021
『王様のブランチ』BOOK大賞2020	2020
読書メーター オブ・ザ・イヤー2020 第1位	2020

書店員だけでなく、多くの読者からも高い評価を得た事実は、この物語が持つ普遍的な魅力を示しています。

よくある質問（FAQ）

映画と原作の小説では、ストーリーに違いはありますか？

物語の核となるメッセージや感動は共通していますが、映画では上映時間に合わせたいくつかのエピソードの変更や、登場人物の心情を映像で表現するための独自の演出が加えられています。

原作ファンの方も、新たな発見があるでしょう。

この物語に続編はありますか？

『52ヘルツのクジラたち』の直接的な続編は、2024年6月時点では刊行されていません。

しかし、作者の町田そのこさんの他の作品にも、心に傷を負った人々の再生を描く感動的な物語がたくさんありますので、ぜひ手に取ってみてください。

児童虐待など重いテーマですが、読んでいて辛くなりませんか？

確かに胸が痛む描写も含まれますが、物語は決して読者を暗い気持ちにさせるだけでは終わりません。

それ以上に、傷ついた魂が出会い、寄り添うことで生まれる温かい希望や人との繋がりの尊さが力強く描かれています。

映画のロケ地はどこですか？

物語の主な舞台となっている大分県で、大部分の撮影が行われました。

主人公の貴瑚が移り住んだ海の見える町の美しい風景が、登場人物たちの心情を豊かに表現する効果をもたらしています。

物語にはトランスジェンダーに関するテーマも含まれますか？

はい、含まれます。

主要な登場人物の一人であるアンさんはトランスジェンダーであり、彼の抱える葛藤や存在が物語の重要な要素です。

多様な愛の形や、人が自分らしく生きることの尊さを問いかけます。

なぜアンさんは貴瑚にとって重要なのですか？

アンさんは、貴瑚が過去に絶望の淵にいた時に彼女を救い出し、人生の指針を示してくれた恩人です。

彼の存在があったからこそ、貴瑚は虐待を受けていた少年を救おうと決意することができました。

物語全体の根幹を支える重要な人物と言えます。

まとめ

『52ヘルツのクジラたち』は、誰にも声が届かない人々の孤独に寄り添い、希望を描いた物語です。

特に、傷ついた魂が出会い、互いを救いながら再生していく姿は、多くの読者の心を強く揺さぶりました。

もしあなたが日々の生活に潤いを求めているのなら、ぜひこの物語に触れてみてください。

きっと、あなたの心に深く響く言葉が見つかります。