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【ネタバレ解説】貫井徳郎『慟哭』の犯人と結末|最後の一行と2つの時間軸トリックを考察

貫井徳郎さんの小説『慟哭』は、その巧みな仕掛けから叙述トリックの傑作として今なお語り継がれています

この記事では【ネタバレあり】で、読了後のあなたのために、犯人の正体から、読者を騙す2つの時間軸を使った叙述トリック、そして衝撃的な「最後の一行」が持つ本当の意味までを徹底的に解説します。

読み終えたけど、あの結末の仕掛けがよくわからない…

ご安心ください。この記事で、物語の全貌がスッキリとわかります。

目次

『慟哭』はなぜすごいのか、傑作ミステリーと評価される理由

貫井徳郎さんのデビュー作『慟哭』が、今なお傑作として語り継がれる理由は、読者の予想や常識を根底から覆す物語構造の巧みさにあります。

一度読んだら忘れられない衝撃は、練り上げられた構成とトリックによってもたらされるのです。

捜査パートともう一つの物語が交差する巧みな構成

本作の大きな特徴は、連続幼女誘拐事件を追う「捜査パート」と、それとは別にある男の過去の日常が語られるパートという、二つの物語が交互に展開される構成です。

一見すると接点のない二つの物語が、いつ、どのように繋がるのか、読者はページをめくる手が止まらなくなります。

この巧みな構成が、読者を自然に物語の世界へと引き込んでいくのです。

2つの話がどう繋がるのか、ずっと考えながら読んでいました。

この構成こそが、巧みな叙述トリックの土台になっています。

読者は二つの物語が同時進行していると無意識に信じてしまいます。

その思い込みこそが、終盤で待ち受ける驚愕の真実への伏線となっているのです。

読者の思い込みを利用した鮮やかな叙述トリック

叙述トリックとは、物語の記述そのものを利用して読者を巧みに騙すミステリーの手法です。

『慟哭』では、読者が抱く「2つのパートは同じ時間軸で進んでいる」という先入観を逆手に取ります。

実際には、捜査パートが「現在」、もう一方の男の物語は「捜査パートの数年前」という過去の出来事であり、この時間軸のズレこそが、読者を騙す最大の仕掛けです。

まさか時間軸が違うなんて、まったく思いもしませんでした!

多くの読者が同じように騙されます。それほど見事な仕掛けなのです。

この大胆なトリックによって、読者が築き上げてきた物語の全体像は一気に崩れ去ります。

騙されたと気づいた瞬間の驚きが、本作の評価を不動のものにしています。

すべてが覆る最後の一行がもたらす衝撃

ミステリー小説の評価を決定づける要素の一つに、読後感を左右する結末の切れ味が挙げられます。

その点において、『慟哭』の「最後の一行」がもたらす衝撃は計り知れません。

この一文によって、それまで語られてきたすべての物語の意味が180度反転し、読者は呆然とさせられます。

あの最後の一行を読んだ瞬間、鳥肌が立ちました…。

タイトルの『慟哭』の意味が、その瞬間に心に突き刺さりますよね。

張り巡らされた伏線が一気に繋がり、真実が明らかになるカタルシスと、タイトルに込められた痛切な感情が同時に押し寄せます。

この衝撃的な読書体験こそ、『慟哭』が多くの読者の心に深く刻まれる理由です。

北村薫氏による「仰天」という推薦

本作のすごさは、ミステリー作家である北村薫氏が寄せた推薦文にも集約されています。

この推薦文は、これから作品を読む人、そして読み終えた人の双方にとって、的確な道しるべとなる言葉です。

デビュー作とは思えない完成度の高さと、読後にもたらされる衝撃を見事に表現しています。

●北村薫氏推薦――「題は『慟哭』 書き振りは《練達》 読み終えてみれば《仰天》」 [https://www.tsogen.co.jp/np/isbn/9784488425012](https://www.tsogen.co.jp/np/isbn/9784488425012)

貫井徳郎さんのデビュー作でありながら「練達」と評された筆致と、読者を「仰天」させる結末。

この二つが組み合わさることで、『慟哭』は他の追随を許さない傑作ミステリーとしての地位を確立しました。

【ネタバレ考察】『慟哭』の犯人と結末、叙述トリックの全貌

『慟哭』を読み終えた後、頭が真っ白になるような衝撃と、物語の巧みさに打ちのめされたのではないでしょうか。

ここでは、あなたのその興奮と混乱を解きほぐすために、物語の核心である犯人の正体から、読者を巧みに欺く叙述トリックの全貌までを徹底的に解説します。

この見出し以降では、物語の根幹に関わるすべての謎を解き明かしていきます。

まだ読んでいない方はご注意ください。

連続幼女誘拐事件の犯人とその動機

物語を震撼させる連続幼女誘拐事件の犯人は、「僕」として数年前の過去を語っていた男の現在の姿であり、事件を捜査していた佐伯捜査一課長本人です。

彼の動機は、単なる快楽や金銭目的ではありません。

罪から逃れるために回想していた過去の行動と、現在の捜査官としての立場が混濁し、歪んだ形で過去の罪を再現するような凶行に及んでしまったのです。

じゃあ、捜査のパートと、数年前に起きた「僕」のパートは全く別の話だったの?

いいえ、二つの物語は繋がっています。

その繋がり方こそが、この作品の最もすごい仕掛けなのです。

佐伯の犯行は、彼自身の内なる「慟哭」が引き起こした、あまりにも痛ましく悲しい結末と言えます。

手記を綴った「僕」の本当の正体

読者が物語の片側で読み進めていた、一人称「僕」で語られるパート。

その語り手の本当の正体は、若きエリートである佐伯捜査一課長の過去の姿です。

私たちは、現在の事件を追う佐伯と、数年前の過去を語る「僕」をまったくの別人として読んでしまいます。

しかし、実際には過去のパートで描かれている借金に苦しみ、家庭が崩壊していく男の姿こそ、佐伯が葬り去りたかった忌まわしい過去そのものだったのです。

彼は過去の自分を「松本」という架空の存在として回想することで、精神の均衡を保とうとしていました。

このトリックにより、読者は知らず知らずのうちに、一人の人間の絶望的な過去と、その罪に追われる現在を同時に見せられていたことになります。

読者を騙す時間軸のズレという仕掛け

この物語で使われている叙述トリックの核は、「捜査パート」と、一人称で語られる「僕」のパートの時間軸が全く異なるというものです。

読者は二つの物語が、同じ時間軸で並行して進んでいると自然に思い込んでしまいます。

しかし、「僕」として語られる物語は、事件が起きている「現在」から見て何年も前の「過去」の出来事だったのです。

例えば、過去のパートに出てくるカセットテープといった小道具が、巧みに時代のズレをカモフラージュしています。

そんなの気づけるはずがない…どうして騙されちゃうんだろう?

作者は、私たちの思い込みを逆手に取る伏線を、物語の至る所に散りばめているからです。

この時間軸のトリックによって、すべての事実が明かされる最後の瞬間まで、私たちは物語の本当の構造に気づくことができません。

物語に隠された伏線の数々とその意味

時間軸のズレという大胆なトリックを成り立たせるため、作中には数多くの伏線が巧妙に配置されています。

初読では気にも留めない描写が、真相を知った後では全く違う意味を帯びてくるのです。

これらの伏線は、一度読んだだけではその本当の役割に気づくことは困難です。

しかし、再読してみると、あまりに周到に仕掛けられた作者の術中に驚愕するでしょう。

これらの一つひとつの伏線がパズルのピースのように組み合わさり、物語の最後に衝撃的な全体像を描き出します。

「お父さんだよ」最後の一行に込められた慟哭

物語の締めくくりである「お父さんだよ」という一言。

このセリフこそ、佐伯の精神が完全に崩壊したことを示す、痛切な叫びです。

この言葉は、誘拐した少女に対して発せられます。

彼は少女の中に、かつて自らが手にかけた我が子の姿を重ねているのです。

過去の罪から逃れるために捜査官として事件を追い、犯人として罪を再現した結果、彼は「父親」であった過去の自分と「誘拐犯」である現在の自分の区別がつかなくなってしまいました。

だから『慟哭』っていうタイトルなんだ…重すぎる…

この救いのない結末と、心の底からの叫びを描いている点こそが、本作が傑作と呼ばれる理由です。

読者はこの最後の一行で、犯人の正体やトリックの解明といったミステリーの枠を超え、一人の人間が抱える罪の重さと、魂の慟哭を突きつけられるのです。

『慟哭』の衝撃をもう一度、どんでん返しがすごいミステリー小説3選

『慟哭』を読み終えた、あの頭が真っ白になる感覚をもう一度味わいたいと思いませんか。

ここでは、読者の思い込みを利用する巧みな仕掛けによって、驚愕の結末が待っているミステリー小説を3冊厳選して紹介します。

いずれもミステリー史に残る名作ばかりです。

『慟哭』で叙述トリックの面白さに目覚めたあなたを、再び深い驚きの渦に引きずり込むでしょう。

我孫子武丸『殺戮にいたる病』

『殺戮にいたる病』は、猟奇的な殺人犯の独白(手記)と、その事件を追う側の視点が交互に描かれる物語です。

現在の捜査と、数年前のある男の物語が並行して進む『慟哭』の構成を彷彿とさせ、読者は犯人の異常な心理に引き込まれながら読み進めることになります。

初版は1992年に刊行され、30年以上経った今でも多くの読者に衝撃を与え続けています。

特筆すべきは、物語の終盤で明らかになる手記の語り手の正体です。

この一点によって全ての風景が反転する感覚は、『慟哭』の読後感に通じるものがあります。

これも『慟哭』みたいに、かなり精神的にくる作品なのかな?

はい、通称「イヤミス」の代表格で、読後感の悪さは覚悟が必要です

人間の心理の深淵を覗き込むような恐怖と、叙述トリックの見事さに打ちのめされたい方には、まさにうってつけの一冊と言えます。

乾くるみ『イニシエーション・ラブ』

『イニシエーション・ラブ』は、一見すると80年代を舞台にした甘酸っぱい青春恋愛小説です。

しかし、物語の本当の姿は、巧妙に仕掛けられた叙述トリックミステリーにほかなりません。

2015年には映画化もされ話題となりましたが、この作品の真髄は小説ならではの仕掛けにあります。

読み進めるうちに読者が無意識に作り上げていた人物像や時間軸が、最後から二行目ですべて崩壊するのです。

恋愛小説なのにミステリーっていうのが、いまいち想像つかないな

その先入観こそが作者の狙いです。読み終えた後、必ず最初から読み返したくなりますよ

『慟哭』の「最後の一行」と同様に、たった数行で世界が変わる驚きを体験できます。

騙される快感を存分に味わってください。

綾辻行人『十角館の殺人』

『十角館の殺人』は、日本のミステリー界に「新本格」というジャンルを確立させた記念碑的な作品です。

孤島にある奇妙な館を舞台に、大学のミステリ研究会のメンバーが次々と殺されていく、いわゆるクローズド・サークルものです。

1987年の刊行以来、多くのミステリー作家に影響を与えてきました。

この作品のすごさは、読者が絶対に不可能だと思い込むトリックを大胆な仕掛けで成立させている点にあります。

『慟哭』が読者の心理的な思い込みを突いたのに対し、こちらは物語のルールそのものを逆手に取ります。

これも叙述トリックなの?なんだか難しそう…

物語の構造そのものがトリックになっており、真相が明かされた時の衝撃は計り知れません

『慟哭』とはまた違った種類の「やられた!」という感覚を味わえます。

本格ミステリーの歴史を変えた一冊の衝撃を、ぜひ体感してみてください。

小説『慟哭』の作品情報と著者・貫井徳郎

この傑作ミステリーをより深く理解するために、作品の基本情報と、この物語を生み出した作家・貫井徳郎氏について見ていきましょう。

本作は、読者の予想を裏切る展開で知られる貫井徳郎さんの衝撃的なデビュー作です。

【ネタバレなし】あらすじと主な登場人物

物語は、犯人の手がかりが全くつかめない連続幼女誘拐事件の捜査パートと並行して、ある男の私生活が「僕」という一人称で語られていく構成です。

警察とマスコミに追い詰められる捜査一課長、そして借金を抱える男、二つの視点が交錯する中で、人間の内面に潜む痛切な叫びが描かれます。

そういえば、捜査官と「僕」と名乗る男、名前はなんだっけ?

物語の鍵を握る2人の登場人物をここで再確認しておきましょう

この一見無関係に見える二人の存在が、物語の核心に繋がる最大の仕掛けとなっています。

著者・貫井徳郎の経歴とデビュー作

本書の著者である貫井徳郎氏は、デビュー作にしてミステリー界に大きな衝撃を与えた作家です。

1968年に東京都で生まれ、早稲田大学商学部を卒業後、1993年に本作『慟哭』で作家としてデビューを果たしました。

デビューから約17年後の2010年には『乱反射』で第63回日本推理作家協会賞、『後悔と真実の色』で第23回山本周五郎賞を同年受賞するという快挙を成し遂げています。

『慟哭』がいきなりデビュー作だったなんて驚きだよね

〈ええ、その完成度の高さから「新人離れしている」と当時から話題でした〉 緻密なプロットと人間の心理を深く掘り下げる作風で、現在も多くのミステリーファンを魅了し続けています。

創元推理文庫版の書籍データ

あなたが手に取った『慟哭』も、これから紹介する書籍データと同じものでしょうか。

現在広く読まれている創元推理文庫版の情報を以下にまとめます。

1999年の初版から20年以上経った今もなお、多くの読者に読み継がれているロングセラー作品であることが分かります。

よくある質問(FAQ)

『慟哭』は「胸糞」という感想をよく見ますが、本当に救いのない物語なのでしょうか?

この小説の結末は非常に重く、読後感が明るいものではないため、「胸糞」だと感じる方が多いのは事実です。

しかし、犯人が抱える痛切な心の叫びや、罪の重さを深く描いている点に、物語の大きな価値があります。

単に不快な話で終わるのではなく、人間の心の闇と深く向き合う作品として、多くの読者から高い評価を得ています。

すごい叙述トリックに全く気づけませんでした。二回目に読むときは、どこに注目すれば伏線を楽しめますか?

再読の際は、主に「僕」の視点で語られる過去のパートと、現代の「捜査パート」との時代設定の違いを探してみてください。

例えば、過去のパートに出てくるカセットテープのような小道具や、登場人物たちが使う言葉の選び方などが、巧妙に仕掛けられた伏線です。

物語の真相を知った上で読むと、初読では気にも留めなかった数々の描写が、全く異なる意味を持って見えてきます。

犯人である佐伯の心理が複雑です。エリート捜査官の彼が、なぜあのような犯行に及んだのですか?

佐伯の犯行の根源には、過去に我が子を手にかけたという、消えることのない罪悪感があります。

彼は優秀な捜査官として生きることで過去の自分を葬り去ろうとしましたが、その罪の意識から逃れることはできませんでした。

結果として、過去の罪を追体験するかのように事件を起こしてしまい、彼の精神は完全に崩壊したと考察できます。

「お父さんだよ」という最後の一行の後、佐伯や少女はどうなったと考えるのが自然ですか?

作中ではその後の展開は描かれていません。

しかし、あの結末から考えると、佐伯はその場で現行犯逮捕されたと見るのが妥当です。

精神が崩壊しているため、刑事責任能力の有無が問われることになります。

誘拐された少女は無事に保護されますが、心に癒えない傷を負ったことは想像に難くありません。

読者の想像に委ねられた、非常に重い結末と言えます。

この小説は「イヤミス」の傑作と評価されていますが、なぜただ嫌な気分になる話ではないのですか?

『慟哭』がイヤミスの傑作として高い評価を受ける理由は、その不快な感情が、緻密に計算された物語構成と、人間の本質を鋭く突く心理描写から生まれるからです。

読者を驚かせるどんでん返しの裏には、現代社会が抱える問題や家族の歪みといった深いテーマが存在します。

そのため、読後感は重いですが、同時に物語の完成度の高さに感嘆させられるのです。

貫井徳郎さんのおすすめ作品が知りたいです。『慟哭』のような小説は他にもありますか?

貫井徳郎さんの作品には、本作のように人間の深い闇や心理を描いた傑作が数多くあります。

『慟哭』のような衝撃的な読後感を求める方には、同じく「イヤミス」として名高い『乱反射』などがおすすめです。

作品ごとにトリックやテーマは異なりますが、巧みな物語構成と、読者の心をえぐるような鋭い筆致は、貫井徳郎作品に共通する大きな魅力です。

まとめ

この記事では、貫井徳郎さんの傑作ミステリー『慟哭』について、犯人の正体から結末のすごいどんでん返しまでを詳しく解説しました。

物語の核心は、連続誘拐事件を追う捜査パートと、一人称で語られる数年前の過去パートの時間軸が全く異なり、一人の人間の現在と過去を描いていたという、巧みな叙述トリックにあります。

この記事で物語のからくりをすべて理解した今、ぜひもう一度『慟哭』を手に取ってみてください。

初読では気づけなかった無数の伏線を発見する、新たな読書体験があなたを待っています。

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