アガサ・クリスティの不朽の名作『そして誰もいなくなった』の結末で最も重要なのは、犯人が自身の死を偽装したという巧妙なトリックです。
この記事では、真犯人であるウォーグレイヴ判事の正体から、法で裁かれぬ罪人たちに裁きを下すという歪んだ動機、そして童謡の歌詞通りに登場人物が殺されていく衝撃の結末まで、全てのあらすじを徹底的に解説します。

犯人のウォーグレイヴは途中で殺されたはずでは?



それこそが、事件の真相を解く最大の鍵となるトリックでした。
- 犯人ウォーグレイヴの正体と巧妙な死の偽装トリック
- 童謡の歌詞通りに進む連続殺人の全あらすじ
- 法で裁かれない罪人たちを集めた犯人の歪んだ動機
- 事件の真相を解き明かす告白書の内容
『そして誰もいなくなった』の結末|犯人はウォーグレイヴ判事
この物語の衝撃的な結末は、招待客の一人であったローレンス・ウォーグレイヴ元判事が真犯人であるというものです。
彼は法では裁くことのできない罪人たちに自らの手で裁きを下すという歪んだ正義感を持ち、巧妙なトリックを用いて自身の死を偽装し、他の9人全員を殺害しました。
物語の真相を理解するためには、事件の背景となる3つの重要な要素を知ることが不可欠です。
これから、事件が起きた舞台、謎の招待主、そして殺人を予告した不気味な童謡について、順を追って解説します。
ウォーグレイヴは末期の病を患っており、人生の最後に芸術的な完全犯罪を成し遂げたいという殺人願望も動機の一つでした。
事件の真相は、後に漁船が発見した彼の手記が入った瓶詰めの告白書によって、ようやく明らかになったのです。
物語の舞台|外部から遮断された孤島インディアン島
『そして誰もいなくなった』の舞台は、イギリスのデヴォン州沖に浮かぶインディアン島です。
この島は、外部との交通手段が限られ、嵐が来ると本土から完全に隔離される「クローズド・サークル」という極限状況を生み出します。
島には豪華な邸宅が1軒あるだけで、電話線も切断されており、助けを呼ぶ手段は一切ありません。
この脱出不可能な閉鎖的環境が、登場人物たちの疑心暗鬼と恐怖を増幅させ、犯人の計画を容易にしました。



なぜわざわざ孤島が舞台になったの?



犯人が外部の干渉を受けずに計画を完遂するための、完璧な舞台装置だったからです。
孤立した状況は、生存者たちに残された人間の中に犯人がいるという確信を抱かせ、お互いを疑わせる心理戦へと発展させていくのです。
謎の招待主U・N・オーエンの正体
インディアン島に10人を招待した謎の人物「U・N・オーエン」は、実在しません。
この名前は、英語の「Unknown(正体不明)」をもじった架空の人物であり、犯人であるウォーグレイヴが作り出したものでした。
招待客たちは、それぞれ面識のないオーエン夫妻や旧友、元雇い主など、自分に関係のある人物からの招待状だと信じて島へやってきます。
この巧妙な嘘によって、過去に罪を犯した者だけが10人集められたのです。



誰も招待主の正体を怪しまなかったの?



招待状が各個人の事情に合わせて巧みに作成されていたため、誰も疑うことはありませんでした。
姿を見せない招待主の存在は、招待客たちに不気味な印象を与え、これから始まる惨劇への序章として機能します。
事件を予告する不気味な童謡『十人のインディアン』
この物語の最も特徴的な要素は、マザーグースの童謡『十人のインディアン』が連続殺人の犯行予告として使われている点です。
この詩は島の各客室に飾られていました。
詩の内容に合わせて、食卓に置かれた10体のインディアン人形が1人殺されるごとに1体ずつ消えていきます。
この演出は、生存者たちに「次は自分の番だ」という強烈な心理的圧迫を与え、犯行をよりドラマチックなものにしています。
十人のインディアンの少年が食事に出かけた
https://hyakuhon.com/novel/%E3%80%8E%E3%81%9D%E3%81%97%E3%81%A6%E8%AA%B0%E3%82%82%E3%81%84%E3%81%AA%E3%81%8F%E3%81%AA%E3%81%A3%E3%81%9F%E3%80%8F%E5%8E%9F%E4%BD%9C%E5%B0%8F%E8%AA%AC%E3%82%92%E5%BE%B9%E5%BA%95%E3%83%8D/
一人が咽喉をつまらせて、九人になった
九人のインディアンの少年がおそくまで起きていた
一人が寝すごして、八人になった
八人のインディアンの少年がデヴァンを旅していた
一人がそこに残って、七人になった
七人のインディアンの少年が薪を割っていた
一人が自分を真っ二つに割って、六人になった
六人のインディアンの少年が蜂の巣をいたずらしていた
蜂が一人を刺して、五人になった
五人のインディアンの少年が法律に夢中になった
一人が大法院に入って、四人になった
四人のインディアンの少年が海に出かけた
一人が燻製のにしんにのまれ、三人になった
三人のインディアンの少年が海に動物園を歩いていた
大熊が一人を抱きしめ、二人になった
二人のインディアンの少年が日向に坐った
一人が陽に焼かれて、一人になった
一人のインディアンの少年が後に残された
彼が首をくくり、後には誰もいなくなった
この「見立て殺人」は、物語全体に不気味な雰囲気と芸術性をもたらし、犯人の異常な計画性を際立たせています。
インディアン島に集められた登場人物10人とそれぞれの罪状
物語を理解する上で、インディアン島に招待された10人の登場人物がどのような過去の罪を背負っているのかを把握することが最も重要です。
彼らは職業も年齢も様々ですが、全員が法では裁かれなかった罪を犯しているという共通点を持っています。
登場人物 | 職業・立場 | 過去の罪 |
---|---|---|
ローレンス・ウォーグレイヴ | 元判事 | 陪審員を誘導し、被告に死刑判決を下した |
ヴェラ・クレイソン | 元家庭教師 | 恋人の遺産相続のため、預かっていた子供を故意に溺死させた |
フィリップ・ロンバート | 元陸軍大尉 | 食料を独り占めし、同行していた部族民21人を餓死させた |
エミリー・ブレント | 老婦人 | 妊娠した使用人を解雇し、自殺に追い込んだ |
ジョン・マカーサー | 退役軍人 | 妻の不倫相手だった部下を、意図的に死地へ送った |
エドワード・アームストロング | 医師 | 飲酒状態で手術を行い、患者を死亡させた |
アンソニー・マーストン | 青年 | 自動車の速度超過で子供2人を轢き殺した |
ウィリアム・ブロア | 元警部 | 偽証によって無実の人物を罪に陥れ、獄死させた |
トマス・ロジャース | 執事 | 病気の雇い主を見殺しにし、遺産を受け取った |
エセル・ロジャース | 料理人兼メイド | 夫と共謀し、病気の雇い主を見殺しにした |
彼らは全員、法では裁かれなかったものの、何らかの形で人の死に関与した過去を持つ者たちでした。
この罪こそが、彼らが孤島に集められた理由となります。
ローレンス・ウォーグレイヴ元判事
ローレンス・ウォーグレイヴは、かつて「首吊り判事」として知られていた元判事です。
彼は裁判において、陪審員を巧みに誘導し、被告であったエドワード・シートンに死刑判決を下した過去を持ちます。
表向きは正義の執行者ですが、その内面には残虐な殺人願望を秘めていました。



この人が事件の黒幕だったなんて信じられない…



彼の歪んだ正義感が、この悲劇を生み出す元凶でした
ヴェラ・クレイソン元家庭教師
ヴェラ・クレイソンは、かつて体育教師や家庭教師として働いていた若い女性です。
彼女は、恋人であるヒューゴ・ハミルトンの遺産を相続させるため、預かっていた子供シリル・オグルヴィ・ハミルトンが遠くまで泳ぐのを止めずに見殺しにしました。
ヴェラは物語の最後まで生き残りますが、罪の意識に苛まれ、最終的には自ら命を絶つことになります。
フィリップ・ロンバート元陸軍大尉
フィリップ・ロンバートは、過去にアフリカで傭兵をしていた経験を持つ元陸軍大尉です。
彼は東アフリカで食料を独り占めし、道案内をしていた現地部族の人間21人を見殺しにしたという非情な過去を持っています。
常に拳銃を携帯しており、その大胆不敵な性格から他の招待客から警戒される存在です。
エミリー・ブレント老婦人
エミリー・ブレントは、厳格な道徳観を持つ潔癖な老婦人です。
彼女は、婚前に妊娠した若い使用人のベアトリス・テイラーを厳しく責め立てて解雇し、結果的に彼女を投身自殺に追い込みました。
常に聖書を手にしていますが、その行動は独善的で、他者への共感を欠いています。
ジョン・マカーサー退役軍人
ジョン・マカーサーは、第一次世界大戦を経験した退役軍人です。
彼は妻の不倫相手が部下のアーサー・リッチモンドであると知り、意図的に彼を死の可能性が高い偵察任務へと送り込みました。
島に来てからは自らの罪を悟り、人生の終焉が近いことを静かに受け入れている様子を見せます。
エドワード・アームストロング医師
エドワード・アームストロングは、ロンドンのハーレイ街で開業する成功した医師です。
彼は過去に飲酒した状態で手術を行い、患者であったルイザ・メアリー・クリースを死亡させたという重大な医療過誤を犯しました。
事件の真相を解く上で、ウォーグレイヴに協力してしまった彼の存在が重要な鍵を握ります。



医師が犯人の協力者になるなんて、一番予想外でした



ウォーグレイヴは彼の罪悪感と専門知識を巧みに利用したのです
アンソニー・マーストン青年
アンソニー・マーストンは、ハンサムでスポーツカーを乗り回す裕福な青年です。
彼は無謀な運転で、ジョンとルーシーのコムズ夫妻の子供2人を轢き殺した過去があります。
自身の罪に対して全く反省の色を見せず、その態度が最初の犠牲者となる運命を決定づけました。
ウィリアム・ブロア元警部
ウィリアム・ブロアは、元警部補で現在は私立探偵として活動しています。
彼は警察時代にギャング団から賄賂を受け取り、無実のジェームズ・スティーブン・ランダーに不利な偽証を行い、彼を獄中死に追いやりました。
当初は偽名を使って島にやってきますが、すぐに正体が暴かれ、生存者たちの間で疑心暗鬼を煽る役回りを担います。
トマス・ロジャース執事
トマス・ロジャースは、オーエン夫妻に雇われた執事としてインディアン島にやってきました。
彼は妻エセルと共謀し、遺産を手に入れるために病弱だった雇い主のジェニファー・ブレイディを見殺しにしました。
妻が二人目の犠牲者となった後も冷静に職務をこなそうとしますが、恐怖からは逃れられません。
エセル・ロジャース料理人兼メイド
エセル・ロジャースは、夫のトマスと共に島で働く料理人兼メイドです。
彼女は、病気の雇い主を見殺しにするという夫の計画に従った共犯者でした。
告発のレコードを聞いた後、恐怖で失神するなど、登場人物の中では特に臆病な人物として描かれています。
童謡の歌詞通りに進む見立て殺人の順番と全あらすじ
物語の最も不気味な点は、事件が童謡『十人のインディアン』の歌詞通りに進行することです。
招待客が一人ずつ殺されていくたびに、食卓に置かれた10体のインディアン人形も一つずつ姿を消していきます。
順番 | 犠牲者 | 童謡の歌詞 | 死因 |
---|---|---|---|
1人目 | アンソニー・マーストン | 一人が咽喉をつまらせて | 毒殺(青酸カリ) |
2人目 | エセル・ロジャース | 一人が寝すごして | 薬殺(睡眠薬過剰摂取) |
3人目 | ジョン・マカーサー将軍 | 一人がそこに残って | 撲殺 |
4人目 | トマス・ロジャース | 一人が自分を真っ二つに割って | 撲殺(斧) |
5人目 | エミリー・ブレント | 蜂が一人を刺して | 毒殺(注射) |
6人目 | ローレンス・ウォーグレイヴ | 一人が大法院に入って | 銃殺(偽装) |
7人目 | エドワード・アームストロング医師 | 一人が燻製のにしんにのまれ | 転落死 |
8人目 | ウィリアム・ブロア | 大熊が一人を抱きしめ | 圧死 |
9人目 | フィリップ・ロンバート | 一人が陽に焼かれて | 射殺 |
10人目 | ヴェラ・クレイソン | 彼が首をくくり | 自殺(首吊り) |
犯人は用意周到に計画を立て、童謡の歌詞になぞらえて殺人を実行していきました。
次は、それぞれの犠牲者がどのように殺害されたのか、その詳細な状況を見ていきましょう。
一人目の犠牲者アンソニー・マーストン
童謡の最初の歌詞は「十人のインディアンの少年が食事に出かけた 一人が咽喉をつまらせて、九人になった」です。
この歌詞通り、最初の犠牲者となったのはハンサムな青年アンソニー・マーストンでした。
彼は夕食後の団らん中、ウイスキー・ソーダを飲んだ直後に突然倒れて死亡します。
検死の結果、飲み物には致死量の青酸カリが混入されていたことが判明しました。



最初に死んだマーストンが一番罪悪感なさそうだったのが皮肉だね…



はい、彼は自分の犯した罪に無自覚だったため、最初の裁きの対象に選ばれたのです。
彼の死は、これから始まる連続殺人の幕開けを告げる衝撃的な出来事でした。
二人目の犠牲者エセル・ロジャース
童謡の二番目は「九人のインディアンの少年がおそくまで起きていた 一人が寝すごして、八人になった」です。
これになぞらえ、二人目の犠牲者は使用人のエセル・ロジャースでした。
彼女は最初の殺人にショックを受け、精神安定のために睡眠薬を服用して眠りにつきました。
しかし、翌朝になっても目を覚ますことはなく、睡眠薬の過剰摂取による死亡が確認されます。
犯人が彼女の飲み物に致死量を超える睡眠薬を混入したと判明し、島内の疑心暗鬼はさらに深まります。
三人目の犠牲者ジョン・マカーサー将軍
童謡の三番目は「八人のインディアンの少年がデヴァンを旅していた 一人がそこに残って、七人になった」です。
歌詞の通り、三人目の犠牲者となったのはジョン・マカーサー将軍でした。
将軍は過去の罪を悔い、死を覚悟したように一人で海辺にいました。
他の人物が彼を探しに行ったときには、すでに後頭部を鈍器のようなもので強打され、殺害された後でした。
生存者たちは、犯人が自分たちの中にいることを確信し、恐怖に支配され始めます。
四人目の犠牲者トマス・ロジャース
童謡の四番目は「七人のインディアンの少年が薪を割っていた 一人が自分を真っ二つに割って、六人になった」です。
この不気味な歌詞通り、四人目の犠牲者は執事のトマス・ロジャースでした。
彼は朝、薪を割っていたところを何者かに襲われ、斧で後頭部を叩き割られて死亡しました。
妻を失い、恐怖に怯えながらも職務をこなそうとした彼の死は、生存者たちにさらなる衝撃を与えます。
犯行が大胆になっていくにつれて、残された者たちの疑心暗鬼は頂点に達しました。
五人目の犠牲者エミリー・ブレント
童謡の五番目は「六人のインディアンの少年が蜂の巣をいたずらしていた 蜂が一人を刺して、五人になった」です。
五人目の犠牲者となったのは、潔癖な老婦人エミリー・ブレントでした。
彼女は朝食後、一人で部屋にいる際に突然意識を失います。
アームストロング医師が診察すると、首に注射痕があり、強力な毒物である青酸カリを注射されて死亡したことが判明しました。
窓の外では一匹の蜂が飛んでいました。



注射器はどうしたんだろう?



犯人はアームストロング医師が持っていた注射器を盗んで犯行に使用したのです。
医師の所持品が凶器に使われたことで、生存者たちの間には決定的な亀裂が生まれます。
六人目の犠牲者ローレンス・ウォーグレイヴの死の偽装
童謡の六番目は「五人のインディアンの少年が法律に夢中になった 一人が大法院に入って、四人になった」です。
この歌詞に対応するのが、元判事であるローレンス・ウォーグレイヴの死でした。
生存者たちが食堂に戻ると、ウォーグレイヴが判事の法服とカツラを身に着け、額を撃ち抜かれて死んでいる姿を発見します。
この死は、後に犯人による巧妙な偽装工作であったことが判明します。
アームストロング医師が死亡を確認したことで、ウォーグレイヴは犯人候補から外れ、生き残った者たちの混乱はさらに深まりました。
七人目の犠牲者エドワード・アームストロング医師
童謡の七番目は「四人のインディアンの少年が海に出かけた 一人が燻製のにしんにのまれ、三人になった」です。
「燻製のにしん」とは注意をそらす偽情報を意味し、この歌詞に騙されたのが協力者のエドワード・アームストロング医師でした。
ウォーグレイヴの死の偽装に協力したアームストロングは、犯人を見つけるというウォーグレイヴの嘘を信じ込みます。
そして深夜、約束の場所で待ち合わせているところを崖から突き落とされて殺害されました。
彼の失踪は残された3人に大きな衝撃を与え、お互いへの不信感を極限まで高めることになります。
八人目の犠牲者ウィリアム・ブロア
童謡の八番目は「三人のインディアンの少年が動物園を歩いていた 大熊が一人を抱きしめ、二人になった」です。
これになぞらえて、八人目の犠牲者となったのは元警部のウィリアム・ブロアでした。
彼は食料を求めて一人で家に戻ったところを狙われます。
犯人は2階の窓から、熊の形をした大理石の置時計を彼の頭上へ落下させ、頭蓋骨を粉砕して殺害しました。
この結果、生き残りはロンバートとヴェラの二人だけとなり、物語は最終局面を迎えます。
九人目の犠牲者フィリップ・ロンバート
童謡の九番目は「二人のインディアンの少年が日向に坐った 一人が陽に焼かれて、一人になった」です。
九人目の犠牲者となったのは、元陸軍大尉のフィリップ・ロンバートでした。
ブロアの死体を発見し、最後の二人となったヴェラとロンバート。
ヴェラは極限の恐怖からロンバートが犯人だと確信し、彼が持っていた拳銃を奪います。
そして、ためらうことなくロンバートを射殺しました。
ついに一人だけが生き残り、インディアン島での惨劇は終わったかのように見えました。
十人目の犠牲者ヴェラ・クレイソン
最後の童謡は「一人のインディアンの少年が後に残された 彼が首をくくり、後には誰もいなくなった」です。
歌詞の通り、最後の犠牲者は家庭教師のヴェラ・クレイソンでした。
たった一人になったヴェラは、疲弊しきった状態で自室に戻ります。
するとそこには、首吊り用のロープと椅子が用意されていました。
過去に自分が溺死させた子供の幻覚に苛まれた彼女は、まるで何かに導かれるように自ら首を吊り、命を絶ちます。



誰がロープを準備したの?



死んだはずのウォーグレイヴが、彼女が部屋に戻る前に準備していたのです。
こうして、インディアン島にいた10人全員が死亡し、童謡の歌詞通りの結末を迎えました。
事件の真相|犯人の巧妙なトリックと歪んだ動機
すべての登場人物が死に絶えた後、どのようにして真相が明らかになったのでしょうか。
その鍵を握るのは、犯人自身が残した一通の告白書です。
犯人は自らの死を偽装し、疑心暗鬼に陥る人々を一人ずつ手にかけていきました。
計画の段階 | 内容 |
---|---|
協力者の選定 | 最も騙しやすいアームストロング医師に接近 |
死の偽装 | アームストロング医師を協力させ、自らの死を偽装 |
残りの人物の殺害 | 死んだと思われ油断させ、計画通りに殺害を続行 |
協力者の始末 | 最後に協力者であるアームストロング医師を殺害 |
最終的な結末 | ヴェラを自殺に追い込み、自らも命を絶ち完全犯罪を完成 |
この見出しでは、犯人の正体から動機、そして前代未聞のトリックの全貌まで、事件の核心に迫ります。
真犯人の正体はローレンス・ウォーグレイヴ
この前代未聞の連続殺人事件の犯人は、招待客の一人であり、元判事のローレンス・ウォーグレイヴです。
彼は自らを招待主「U・N・オーエン(Unknown=何者でもない)」と名乗り、10人全員が法で裁かれない罪を犯していることを事前に調査し尽くし、この計画を企てました。



え、でもウォーグレイヴも途中で殺されたはずじゃ…?



その通りです。それが、この事件の最も巧妙なトリックの始まりだったのです。
彼は自らの死を偽装することで生存者たちの警戒心を解き、犯行を最後まで遂行したのでした。
動機は法で裁けぬ罪人への歪んだ正義感と殺人願望
ウォーグレイヴの犯行動機は、二つの強烈な感情から成り立っています。
一つは、法律では裁くことのできない罪人たちに自らが「神」の視点から裁きを下すという歪んだ正義感です。
それに加えて、彼には幼い頃から持ち続けていた残虐で芸術的な殺人への強い願望がありました。
末期の病で自身の死期を悟った彼は、人生の集大成として、誰にも解き明かせない完璧なミステリーを創り上げようとしたのです。
さすがに50年以上経てば、判事の「人殺したくて仕方なくなっちゃった☆」みたいな動機があまりにもサイコパスすぎるし、殺人が続いても部屋に各自ひきこもっちゃうところなど都合よすぎる面も目立つものの、現代ではこの作品はリアリティを楽しむというよりは、舞台を見ているような気持ちで、ページ上で繰り広げられる推理劇を全力で楽しむべき作品。
https://b9life.hatenablog.com/entry/2017/03/22/223943
この二つの感情が融合し、インディアン島という閉ざされた舞台で、童謡になぞらえた芸術的な連続殺人を計画するに至りました。
アームストロング医師を協力者にした死の偽装トリック
この事件のトリックの核心は、ウォーグレイヴが自身の死を偽装したことです。
そのために彼が協力者として利用したのが、医師のエドワード・アームストロングでした。
ウォーグレイヴはアームストロング医師に「犯人を見つけるために協力してほしい」と嘘の提案を持ちかけ、まんまと信用させます。
そして、童謡の6番目の歌詞通りに、自分が額を撃たれて死んだように見せかける計画を実行しました。
トリックの段階 | 実行内容 |
---|---|
協力の提案 | アームストロング医師に「犯人捜しへの協力」を偽って持ちかける |
偽装の実行 | ウォーグレイヴが撃たれたように見せかけ、アームストロングが死亡を確認 |
信頼の獲得 | 医師による死亡宣告で、他の生存者はウォーグレイヴの死を完全に信じ込む |
自由な行動 | 死んだことになっているウォーグレイヴは、誰にも警戒されずに行動 |
協力者の始末 | 真夜中にアームストロング医師を崖から突き落とし殺害 |
医師という専門家の証言があったからこそ、この大胆な偽装は成功し、彼は島で唯一の安全な立場から残りの人々を裁くことができたのです。
漁船が発見した告白書による真相の解明
事件からしばらく経った後、インディアン島の事件は誰も生存者がいない完全犯罪として、世間を未解決の謎に陥れます。
しかし、偶然にも漁船が引き上げたボトルメールによって、すべての真相が明らかになります。
ボトルの中には、ウォーグレイヴ自身が犯行の全貌を記した手記が入っていました。
そこには、彼の動機、選んだ10人の罪状、そして実行したトリックのすべてが詳細に綴られていたのです。



なぜ犯人なのに、わざわざ真相を書き残したんだろう?



それは、自分の創り上げた完璧な芸術作品を誰かに認めてほしいという、彼の強い顕示欲の表れなのです。
この告白書がなければ、インディアン島での惨劇は永遠に解き明かされることのないミステリーとして語り継がれていたことでしょう。
ウォーグレイヴが残した犯人を特定する3つの手がかり
ウォーグレイヴは自身の芸術的な犯行に絶対の自信を持っており、告白書の中で読者が犯人を特定するための3つの手がかりをわざわざ残していました。
これは、彼がただの殺人者ではなく、自分が作り上げた謎を解かせることに喜びを感じる、知的なゲームの主催者であったことを示しています。
手がかり | 内容 |
---|---|
1. 罪の性質 | ウォーグレイヴが裁いた被告は実際に有罪で、彼だけが「無実の人間」を死なせていなかった |
2. 童謡の歌詞 | 「燻製のにしん(red herring)」に騙されたのはアームストロングで、彼を騙せる人物こそが犯人 |
3. カインの刻印 | 偽装死体の額の赤い印は、旧約聖書における最初の殺人者「カイン」のしるしを意味していた |
これらの手がかりは、物語を注意深く読み返した読者だけが気づくように巧妙に仕組まれており、作品の奥深さを物語っています。
犯人に関する深い考察|公式の結末に残された謎
公式の結末ではローレンス・ウォーグレイヴが犯人とされていますが、物語を深く読み解くといくつかの矛盾点や疑問が浮かび上がります。
特にウォーグレイヴの告白書と本編の描写には、完全には一致しない部分が存在することが、多くの読者に考察の余地を与えているのです。
ここでは、公式の結末に潜む謎と、そこから生まれる別の犯人説について掘り下げていきます。
これらの考察を通じて、『そして誰もいなくなった』が単なる犯人当ての物語ではなく、読者自身が謎解きに参加できる奥深い作品であることがわかります。
ウォーグレイヴ犯人説の矛盾点や疑問
ウォーグレイヴ犯人説とは、事件後に発見された手記によって、彼が真犯人であると明かされる公式の結末を指します。
しかし、この結末にはいくつかの不可解な点が存在するのです。
例えば、登場人物たちが極度の疑心暗鬼に陥っている中で、ウォーグレイヴがどうやって5人もの人間を計画通りに殺害できたのかという実行上の困難さが挙げられます。
他にも、アームストロング医師が協力した理由の不自然さや、死体偽装が発覚しなかった点など、複数の疑問点が指摘されています。
疑問点 | 内容 |
---|---|
協力者の動機 | なぜアームストロング医師は簡単にウォーグレイヴを信用し、協力したのか |
犯行の難易度 | 疑心暗鬼の中、ウォーグレイヴが単独で犯行を続けることは可能だったのか |
偽装の発覚 | ロンバートたちが遺体を運んだ際、死の偽装に気づかなかったのは不自然ではないか |
証言の矛盾 | ブロアが証言したアームストロングの殺害時刻と、告白書の内容に食い違いがある |
状況の矛盾 | ヴェラが失神した際に見た人物の数と、状況説明が一致しない |



公式の結末だけでは、確かにスッキリしない部分がありますね。



そうなんです。この「完璧ではない」部分こそが、物語の深みを増しているのです。
これらの矛盾点があるからこそ、読者は「本当にウォーグレイヴが犯人なのか?」と考え始め、物語の別の側面を探求する楽しみが生まれます。
もう一つの可能性アンソニー・マーストン真犯人説
ウォーグレイヴ犯人説の矛盾から生まれたユニークな考察の一つが、最初に死亡したアンソニー・マーストンが真犯人だったのではないかという説です。
この説は、マーストンがアームストロング医師と共謀して自らの死を偽装したという仮説に基づいています。
最初に死んだと思わせておけば、彼は誰にも疑われることなく島の中で自由に犯行を重ねることが可能になります。
ある考察では、アームストロング医師が誰にでも協力する可能性がある人物として描かれている点が、この説の根拠の一つとされています。



最初に死んだ人物が犯人とは、まさにミステリーの王道ですね!



この説で物語を読み返すと、マーストンの言動が全く違って見えてきますよ。
もちろんこれは数ある考察の一つに過ぎませんが、公式の結末に縛られずに自由に推理できる点が、この作品の大きな魅力と言えるでしょう。
多様な解釈を生む物語構造の面白さ
『そして誰もいなくなった』が時代を超えて愛される理由は、犯人の告白書にあえて曖昧な部分を残し、読者に解釈の余地を与えている点にあります。
作者のアガサ・クリスティは、ウォーグレイヴの手記を絶対的な「真相」としてではなく、一つの「解釈」として提示しているのかもしれません。
ある考察のように、手記を「物語のルールブック」と捉え直すことで、読者自身が探偵となって、ウォーグレイヴ以外の犯人像を導き出すことも可能になります。



なるほど、作者自身が読者に挑戦状を突きつけているような構造なのですね。



その通りです。だからこそ、読むたびに新しい発見があるのです。
このように、物語が終わった後も「別の真相があるのではないか」と想像を掻き立てる仕掛けこそが、本作を不朽の名作たらしめている要因です。
二度読みで発見できる伏線と新たな楽しみ方
『そして誰もいなくなった』は、犯人を知った上でもう一度読むことで、物語の面白さが倍増するように設計されています。
例えば、ウォーグレイヴ犯人説の視点で読み返すと、彼が事件の序盤でつぶやく「落ち着いてさえいえれば・・・計算済みだ」という独白が、犯人としての自信の表れだったと気づきます。
さりげない一言や行動が、実は周到に仕組まれた伏線だったとわかるため、鳥肌が立つような驚きを味わえるのです。
犯人がわかったあとで読むと、ウォーグレイヴの最初の独白や残り4人の状況でそれぞれの内情が描かれる際、彼だけは**「落ち着いてさえいえれば・・・計算済みだ」**と言っていたりと、犯人でも矛盾しない内容となってるんですよね。こういうのは二度読んでも面白い面だと思います。また、殺人ではないと否定しながらも、内心では罪に怯え追いこまれていく登場人物の心理も面白いです。こう考えると、最初に良心の呵責もないマーストンが死んだのは構成的にも納得。大人になった今読むと、マッカーサー将軍になんだか哀れみを感じてしまいますね。一人ロジャーズを庇ってたりとか・・・奥さんのことを心から信じていたんだと思います。
https://b9life.hatenablog.com/entry/2017/03/22/223943
そにしてもなぜに人はこうも見立て殺人に浪漫を感じてしまうのか・・・。様々な派生作品が作られるのも納得の傑作ミステリーでした!
ぜひウォーグレイヴ犯人説やマーストン犯人説など、異なる視点を持って再読してみてください。
一度目とは全く違う物語が立ち上がってくるはずです。
よくある質問(FAQ)
- アームストロング医師はなぜウォーグレイヴの死の偽装に協力したのですか?
-
アームストロング医師は、ウォーグレイヴ判事から「真犯人を見つけ出すために協力してほしい」と嘘の提案をされ、それを信じ込んでしまったからです。
ウォーグレイヴは、医師が過去に犯した医療過誤への罪悪感や、極限状況における冷静な判断力の低下を巧みに利用しました。
その結果、アームストロングは犯人探しの協力者になると信じ、まんまと死の偽装という巧妙なトリックに加担させられたのです。
- 犯人ウォーグレイヴの「歪んだ正義感」とは具体的にどのようなものでしたか?
-
犯人であるウォーグレイヴが抱いていたのは、法律では裁くことのできない罪を犯した人間を、自らが神に代わって罰するという独善的な正義感でした。
彼は元判事として多くの罪人を見てきましたが、法の網をすり抜ける者がいることに強い憤りを感じていました。
この感情が、幼少期から持っていた残虐な殺人願望と結びつき、人生の最後に芸術的な見立て殺人を計画するという恐ろしい動機になったのです。
- 登場人物はみな過去に罪を犯していますが、犯人はどうやって彼らを選んだのですか?
-
ウォーグレイヴは元判事という社会的地位や人脈を活かし、長年にわたって情報を収集していました。
彼は、裁判にはならなかったものの世間で噂になった事件や、人づてに聞いた話を丹念に調べ上げ、法では裁かれない罪を持つ人物のリストを作成しました。
そして、その中から今回の計画にふさわしい登場人物として10人を選び出し、招待状を送ったという経緯です。
- なぜ最後の生存者だったヴェラは、自ら首を吊ってしまったのですか?
-
ヴェラが自殺を選んだのは、死んだはずのウォーグレイヴによって巧妙に心理的に追い詰められた結果でした。
ロンバートを射殺し、たった一人の生存者となったヴェラは、精神的に限界の状態でした。
自室に戻ると、そこにはあらかじめウォーグレイヴが用意した首吊り用のロープと椅子が置かれていました。
過去に自分が溺死させた子供の幻覚に苛まれた彼女は、まるで操られるように童謡の結末通りに自ら命を絶ってしまったのです。
- ドラマや映画では原作と結末が違うというのは本当ですか?
-
はい、本当です。
特に1945年の最初の映画版や、アガサ・クリスティ自身が手掛けた舞台版では、原作小説の陰惨な結末とは異なり、ヴェラとロンバートが生き残って結ばれるというハッピーエンドに変更されています。
これは、当時の観客が悲劇的な終わり方を好まなかったためと言われています。
しかし、近年のドラマ化作品では、原作の衝撃的な結末を忠実に再現する傾向が強いです。
- ウォーグレイヴが犯人という真相以外に、何か面白い考察はありますか?
-
はい、ウォーグレイヴが残した告白書が真相とされていますが、物語の記述との間にいくつかの矛盾点も指摘されています。
そのため、読者の間では様々な考察が生まれています。
有名なものに、最初に死亡したアンソニー・マーストンがアームストロング医師と共謀して死を偽装し、その後の犯行を続けたという説があります。
このように、公式の結末に縛られずに自分なりの推理を楽しめる点も、この作品の大きな魅力です。
まとめ
この記事で解説した『そして誰もいなくなった』の真相は、真犯人ウォーグレイヴ判事による巧妙な死の偽装トリックに集約されます。
法で裁かれない罪人たちに自ら裁きを下すという、彼の歪んだ正義感がこの凄惨な事件を引き起こしました。
- 法で裁かれぬ罪人への歪んだ正義感を抱く犯人の正体
- 協力者である医師を利用した、自身の死を偽装するトリック
- 童謡の歌詞通りに一人ずつ殺害されていく見立て殺人
犯人の正体とトリックの全貌を理解した上で物語を読み返すと、巧みに仕掛けられた伏線に気づき、二度目の驚きを味わえます。